閑話:ヒナさんランチ

「そういや、お前なんで急にバイトしようと思ったんだ?」


「あー、それな。

 実は、カノジョができてさ」


「マジか!

 カノジョちゃんにフリーの知り合いいたら、紹介してもらってくれよ」


「フリーか……。

 どうだろうな……」


 スマホで求人情報を漁りつつ、やや前のめりなクリヤマの言葉には苦笑いで答えておく。


「んだよ、相談に乗ってやっただろう?」


「まだ付き合いたてだぜ?

 そういうの、簡単には聞けねえよ」


 ――ウソです!


 ――27歳であるヒナさんの周囲にいるのは、おそらく同年代の女性だからです!


 ……と、言うわけにもいかず、適当かつもっともっぽい言い訳でごまかした。

 同級生が10歳年上の社会人とお付き合いしているとか、普通にスキャンダルだからな。

 クリヤマには悪いが、ヒナさんのプロフィールに関しては秘密としておこう。

 そう、俺が付き合っているのは、埼玉の高校三年生キノシタ·ヒナさん……。

 俺が付き合っているのは、埼玉の高校三年生キノシタ·ヒナさんなんだ……!

 よし、自分への言い聞かせ終わり!


 ……と、彼女のことを思い出して、ふと思う。

 お昼ご飯に何を食べたか話すのは、大変に恋人らしい行為なんじゃないかと。

 社会人だと、お昼休みは何時からだろう?

 まあ、いいか。トークアプリなら邪魔にもならないだろう。

 軽くそう考えた俺は、素早くフリック入力したのであった。




--




 オオハラ·タカオ『ヒナさん、お昼何食べた?』(午後1:04)


 オオハラ·タカオ『俺は、コロッケパンと焼きそばパン』(午後1:04)




--




(ほ、ほあああああっ!?)


 結果的に午前中、サボり散らかしていた穴埋めのため、昼休憩返上で作業に当たっていたヒナは、オオハラ少年からの着信に思わず立ち上がりかけた。

 これは……!

 これは……伝説の……!


(ご飯何食べたかトーク! 憧れの!)


 そう、古の時代より、恋人というものはどんな食事をしたのか語り合うもの。

 というか、こういうさりげない会話を交わすのが、お付き合いの醍醐味というものである。

 高校時代の三年間を喪女として過ごし、そのまま心の奥底へ封印された青春担当のヒナが、今こそその時とばかりに小宇宙コスモを燃やし尽くす。

 嗚呼……わたしは今……失われた青春を取り戻している……!

 さておき、話題はお昼ご飯についてである。


(というか……お腹が……減った……)


 ついでに、脳内松重豊ごっこ。カメラも、独特な効果音と共に三段階で引きだ。

 これが松重豊であったならば、そのまま近郊で食事処を探してさまよい歩くパートへ移行するわけであるが、作業中のヒナがそうするわけにはいかない。

 代わりに、引き出しを調べた。


(ご飯ある。調味料ある。缶詰ある……)


 カップ麺やカロリーバーなど、保存がきく品を職場にローリングストックするクリエイター職の人間は多い。

 それは、傍から見た場合における今のヒナがそうであるように、ノッている機を逃したくないクリエイターの本能によるところであった。


 そして、引き出しには各種缶詰に加え、パックご飯と……使い捨てサイズの醤油やわさび、マヨネーズが入っている。

 これら使い捨て調味料は、スーパーでお惣菜を買った時などにひとつずつ失敬し、集めておいたものだ。セコい女である。

 さておき、この組み合わせなら……。


(よし……!)


 最高の献立を思いつき、トーク画面に入力した。

 この後は、これを食べて一気に片付けよう!




--




 hinahina『男の子らしいチョイスだね!』(午後1:08)


 hinahina『わたしは、しょうゆわさびツナかけごはんを食べた』(午後1:08)




--




「――女子高生らしさあっ!」


「――うおっ!? 急にどうした!?」


 立ち上がりながらスマホのトーク画面へつっこんだ俺に、クリヤマが驚いた顔で尋ねてきた。


(ヒナさん……それ、絶対美味いやつだけど、絶対女子高生のお昼ご飯じゃないから……!)


 そんな友人を無視し、俺は心中でツッコミ続けたのである。

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