No Titele

雨八家來眞

第一章第一節 鉄が錆びていた。

鉄が錆びていた。鉄が錆びていた。

世界は如何にも丸く、光は遮られていた。

時間はどこにもなく、苦しみだけがあった。我々を見る事はなく、痛みだけがあった。


鉄が錆びていた。鉄が錆びていた。

希望は蝋燭の煇よりも儚く、絶望はこの世の何よりも悍ましかった。

眼を見開くたびに、世界に絶望した。

恐怖が我々を蝕んでいた。


鉄が錆びていた。鉄が錆びていた。

風化した英雄譚は、砂糖細工よりも甘く脆いもので在った。

夜道を歩くが如き消息を持っていた。


鉄が錆びていた。鉄が錆びていた。

声は誰にも届かず、静寂が沈んでいた。

禁は破らず守られず、極星が漂っていた。


鉄が錆びていた。鉄が錆びていた。

眼は開かず、世界は沈黙していた。

罪業は満ち、簒奪者は死んでいた。


鉄が錆びていた。鉄が錆びていた。

死を畏れ、生に怯え、我は無に帰していた。

紙海の底に沈む我々は、まさしく破滅である。


鉄が錆びていた。鉄が錆びていた。

狂信者を殲滅し、滅亡に導かれた。

秘奥の先に迎えれば、我が道は塞がれた。


鉄が錆びていた。鉄が錆びていた。

義を以て拘い、悪を以て世を制す。

虚空の下へ、帰るまで。


我々は見ていた。


我々は聞いていた。


我々は嗅いでいた。


我々は味わっていた。


我々は感じていた。


我々は知っていた。


我々は理解っていた。


我々は観測していた。


我々は存在していた。


我々は絶望していた。


我々は切望していた。


我々は宣言していた。


我々は顕現していた。


我々は紡いでいた。































我々は、後悔していた








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