第2話 “中身”はずっと“
カノジョ達を無事引率し終わって……
私は一人、行きつけの定食屋で手酌ビールの一人打ち上げ。
ジャケットは畳んで大判のスカーフをふろしきにして膝上だ……
ジャケットの下はカーキ色のノースリーブカットソーだから……定食屋の“空気”の中でも浮かず、落ち着いた雰囲気をこの身にまとわせてくれる。
目の前の焼きナスだけでは飲みのアテとして心もとないので、もう一品頼もうとカウンターの方へ目をやると……
椅子にジャケットを引っ掛けた
いかにもリーマンっぽい人が……
サバ塩焼き定食を食べている。
その箸さばきが!!
とっても素敵!!
思わず見とれてしまう
あっ!!
ジャケットが椅子から落ちそう!!
私、スイっと立って、
「ああ、すみません!」
と顔を上げたその人は
ちょっと
その向こうに見えるお皿の上は……
取られた小骨でさえ整然としていた。
私、“感嘆”が顔に出てしまっていたのだと思う。
カレが少し不思議そうな目をしたから……
今度は私が
手の持ったジャケットをいつもの癖で畳んでしまう。
「ありがとうございます。」
ってカレが言ってくれたので……
私は畳み皺を整えてカレにジャケットを手渡す。
「こうすればお膝に置けますよ」
受け取ったカレの左手には指輪が無かったので、私は思い切って声を掛けてみる。
「今、お夕飯ですか?」
「ええ、もう“夕飯”って時間では無いですけど……ここで食べて帰れば後は寝るだけですから……あっ! 風呂は入りますよ……っつうか……女性を目の前に、ボクは何を言ってるんでしょうねえ~」とカレが可愛くて反省してしまっているので
私はクスクス笑ってしまった。
するとカレは
「なんだかもう、ワーカホリックですね」
と照れ隠しに言うので
「それはいけません。あなたにとって大切な方が悲しみます」とたしなめたら……
「残念ながら親も……歳の離れた兄も……既に他界して“そういう人”が居ない身の上なのです」
と返された。
私のこの口調の変化で……
私の“気持ち”をお察しいただけた?
もう言うしかないよね!
「そんなお話を聞かされたら……同じような身の上の私が……心配してしまいます」
と。
確かに今までは
『いついかなる時でも私が一番!』
だった。
けれども、『それももう卒業』という事も感じている……
だから私は
新たに
胸に“カード”をピン留めする。
『お求め易くなりました』って!
ん、まあ……
『安く』でもいいわ
ううん、やっぱり仮名だわね!
『お求めやすくなりました』!!
こう申し上げておりますけど……
いつも綺麗に磨きをかけて
お手入れしていますし……
“中身”はずっと“真新しいまま”ですわよ!!
おしまい
お求め“安く”なりました 縞間かおる @kurosirokaede
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