帰らずの村〜誰も帰ってこなかった…忘却の神話〜
兒嶌柳大郎
第1話 地図にない村
佐伯悠真は、弟の失踪届が受理された日から、眠れない夜を数えていた。
警察は「自発的な失踪の可能性が高い」と言ったが、悠真には納得できなかった。弟・佐伯直人は、そんな形で消える人間ではない。
最後に残されたのは、直人のスマートフォンに保存されていた一枚の写真。
山深い場所に佇む、苔むした鳥居。
背後には霧が立ち込め、何かがこちらを見ているような錯覚を覚える。
悠真はその写真を頼りに、直人の足取りを追った。
GPSのログは、熊本県の山間部で途切れていた。
地図には何も記されていない。
だが、航空写真を拡大すると、微かに建物の影が見えた。
「夜渡村(よわたりむら)──」
古い文献に、かすかにその名が残っていた。
昭和初期に廃村となり、以降は行政記録からも消された村。
悠真は、かつて新聞記者だった。
事実を追うことに人生を捧げてきたが、ある報道で真実を歪めた過去がある。
その罪悪感が、弟の失踪に対する執着を強めていた。
「直人は、何かを見つけた。俺が見逃した何かを──」
彼は、熊本へ向かった。
地元の図書館で調べを進めると、夜渡村に関する記述はほとんどが削除されていた。だが、ひとつだけ、手書きのメモが挟まれていた。
“夜渡村に入った者は、帰ってこない。
帰ってきた者は、もう人ではない。”
悠真はその言葉に背筋を凍らせながらも、足を止めなかった。
弟の失踪は、偶然ではない。
何かが、彼を呼んだのだ。
そして今、悠真もまた──呼ばれている。
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