第42話 後遺症
「どうしたん、湿布なんかして」
と父にきかれた。
そっけなく
「転(こ)けた」
一言だけ返す。
「大丈夫なんか。ちょっと診せてみ」
「たいしたことないけん」
佐々(さっさ)の診察を拒否る。そのまま部屋に籠(こ)もった。ずっと籠もりっきりだったから、母は仁が顔に湿布をしていることに気づいていない。
翌朝頭痛が酷(ひど)い。頬を押さえるとかなり痛む。おまけに耳鳴りまでしてきた。
どうやら相当な怪我だったらしい。昨日お風呂に入ったのも、いけなかったのかもしれない。温めてはいけない場合もあるということを、思い出した。
『頭痛がしている。頭のどこかを打ったのかな』
首を動かし、頭を触ってみた。どこにも異常がない。ということはやはり頬を強打したことが原因で、どこかを負傷したのかもしれない。
『ヤバい』
頬の裏側にある豆腐のように柔らかい組織を痛めてしまったらしい。腫れている。
今日は土曜なので授業はない。
バスケは痛みが取れるまで大事を取って、しばらく休むことにした。
バスケットは見た目よりも案外肉弾戦で、運動量が半端(はんぱ)ない。
しばらく安静にした方が良いと判断する。
『このままバスケ辞めてしまおうかな』
とも思う。
『この事故はなぜ起きてしまったのだろう。ヤバいな。自分の落ち度はなん
だったのか。しなくても良い怪我をしてしまった原因はなんだったのだろう』
仁は早々と犯人探しを始めた。
ベッドに寝転がっていると、耳鳴りに交じって、仁の頭の中に犯人候補があれこれ浮かんできた。疑問が一杯並んでは消えていく。
頭痛が激しい。なにかが暴れ始めていた。
事故以来、感覚がなんか妙で変だった。耳鳴りがひどい。
おまけに記憶力が鈍ってきている。考えがまとまらない。馬鹿になっていた。
『国家試験前なのに大変だ。医師免許を受けるどころの騒ぎじゃない』
体調が悪い。強打したために、どこかが腫れている。かなり悪い。
玩具(おもちゃ)や風船みたいに、自分の体が大きく膨(ふく)らんだり、萎(しぼ)んだりする感覚異常が起きていた。まるでイースト菌で身体がボワーっと膨らんでいくようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。