第35話 デマ
するとそれまで純のいうことを、静かに黙って聞いていた啓が、いつも持ち歩いているメモ用紙をとりだした。その一枚に
〈地球のプレートが、大移動をはじめる〉
とボールペンで書く。
二枚目の別の紙に
〈世界中で、地球規模の大災害がおきる〉
三枚目に
〈近々人類は、絶滅する〉
と書いた。
この三枚の紙から一枚を抜いて、純の手に持たせ
「ぼくが書いたこの紙を、そっとふんわり軽くさわってみて。もしこの紙を温かく感じたとしたらそれは本当のことだし、冷たいと感じたらデマだっていうことだよ」
純は一枚の紙を両手でふっくらと包みこんだ。
すると手のひらにヒューっと冷たい風が吹きこんだ気がした。
驚きながら次々に紙をさわっていく。どの紙にも冷たい風を感じた。
「ヒューって冷たい感じがする」
純は意気ごんでいった。
「そうだろ。こんな話は全部デマだよ。うそだからなんにも怖がることはない」
啓はいいきる。
もしデマであるとしてもそのデマの根拠も知りたい。
不安を煽って得をする者がいるとしたらそれは誰なのか。
なんの目的があってこのようなデマを流しているのだろう。これ以上フェイクニュースを広げないようにしなければいけない。
いったい誰がこんなデマを流しているのか。
「得をするのは、誰なん」
そのことにも啓は答えをもっていた。
「それは科学者だと思うよ」
「なんで」
「そりゃぁ莫大な予算が欲しいからにきまってる。
宇宙開発にはぼう大な費用がかかるから、予算を割(さ)くためにはそれなりの理由がいるだろ。なんの得にもならない宇宙なんかに、食費を削ってまで、なんで予算を割かなきゃならないのかという不満がおこる。
だからその不満を和らげるために苦肉の策で思いついたんだろうね。
前は資源を調達するためとか、やがてくる人口爆発にそなえてっていわれていたんだけど、政治家を動かすための口実としてはちょっと弱い。心許(もと)ない気がしたんだろうね。
だからすごいことを思いついたんだよ。ここまでふみこんだことを科学者がいうと、人はみんな本気にする。不安になってしまう。だから頭の良い科学者にいい負かされちゃったんだよ。いくらでもいいわけはあるから。
今や宇宙開発は、覇権争いの道具と手段になっている。うそを積み重ねているものだから、大本営発表できないんだ。オフレコの話としてひそかに政治家にだけ広がれば、予算が獲得できるしね」
「そうなんだ」
なんとまあ人騒がせなことを考えるものだと、あきれてしまう。
「科学者がいっていることのなかには嘘もまぎれこんでいるんだよ」
「ときどき発見をして本物を散りばめるものだから、みんなだまされちゃう。もし迷ったらこの方法で確かめてみるといいよ」
「うん、わかった。そそうする」
やはり啓に相談をしてよかったと純は心底安心した。
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