第13話 ドレイヴ下層区での戦闘
ドレイヴ下層区──それはこの都市の廃棄物と秘密が沈む、最も陰鬱な領域だった。
路地は朽ちた鉄骨と腐臭を放つ水たまりで満ち、空気には微かに油と硫黄が混ざっている。足元を滑らせれば、二度と這い上がれない深みに沈むだろう。
《心核》搬入の指定地点──B12区画の倉庫群は、この迷宮のような下層の奥にあった。
「ユグド、B12へのルートを再確認しろ」
>「現在位置より北東、廃線高架下を抜けるルートが最短。推定時間12分。ただし、区域内通信遮断を検知。
>警告:複数の魔導熱源を低出力状態で検知──待伏せの可能性あり」
「……やっぱり、来てるか。“他の連中”も」
私は膝のホルスターに収めた新品のショットガン──《SBT-4スレッジ・リミッター》に指をかける。昨日整備工房でカスタムを施した逸品。
短バレル、衝撃フレーム、そして新設のカートリッジポートが取り付けられたこの鉄塊は、私の新たな“口論相手”だ。
「いいぜ、来るなら来いよ。火薬と蒸気で叩き潰してやる」
>「提案:散布ユニット展開準備推奨。戦術強化用カートリッジ──熱圧安定型または噴出圧上昇型の選択を推奨」
「近接なら熱圧、突入なら噴出圧──だな」
私は腰のパックから【TC-β2】──高圧型のカートリッジを選び、《散布ユニット》に装填した。
金属的なチャージ音と共に、ベルトのユニットがわずかに震える。
──この街の底で、何が待っている?
数歩進むたびに、濡れた鉄と死んだ空気の匂いが強まっていく。
>「注意:B12区画目前。赤外線センサー反応──3名以上。装備は火器、交戦可能性高」
「確認。武装勢力が“心核”を追って先に入ったってことか」
>「補足:先行勢力は“黒鉄牙くろがねきば”の構成員である可能性。地下武装ギルドの一派。
>特徴:即時交戦傾向、心核素材の強奪事案に過去関与」
「“ならず者”の処理は慣れてる」
私はゆっくりとポーチから【SC-γ3】──スモークカートリッジを取り出した。
「突入する。ユグド、敵の遮蔽率、進入口の射線を全てマッピングしろ。反応あれば“先に撃つ”」
>「了解。制圧モード、起動──行動選択自由化」
地下倉庫B12。
この都市の心臓に埋め込まれた“なにか”を巡る、静かな戦争が今、幕を開ける──
鉄扉を蹴り開けた瞬間、倉庫内の空気が変わった。
古びた蒸気タービンの唸りと、警戒音──そして火薬の匂い。
奥の高台にある管理通路から、赤外線センサーを遮断するための薄幕が垂れ、数人の影がこちらに銃口を向けていた。
>「警告:戦闘開始。敵数──6、うち4名重火器装備。遮蔽率32%、挟撃懸念あり。推定勝率:正面突入時34%、煙幕・分断使用時58%」
「──スモーク《展開》!」
腰の《散布ユニット》から噴出された【SC-γ3】が爆ぜ、視界を真白に染める。
同時に私は加圧モードに切り替えた【TC-β2 熱圧安定型】を注入──筋力と反応速度が一瞬で跳ね上がる。
「死ねぇっ!!」
白煙の中を駆け抜け、ショットガン《SBT-4》の銃口を、目前の敵の胸に突き立てて引き金を引く。
乾いた爆音と共に、男の胴体が後方へ吹き飛んだ。
>「敵1名戦闘不能。後方射線注意──右フランクに展開あり」
跳ねるように側転しながら、煙を突き抜けて背後に回り込み、敵のライフルを蹴り上げる。
2発目。銃声。喉が潰れ、返り血が頬に飛んだ。
──殺気が濃い。こいつら、訓練されてる。
>「敵戦術AI搭載型通信機使用を確認。小隊単位の連携動作検出──“傭兵崩れ”ではない。旧式軍用技術の流出懸念」
「黒鉄牙……ただの盗賊じゃねぇな」
銃撃戦の中で、私は奥の保管庫へ目を向ける。
そこには、大型の鋼鉄製の梱包箱が固定されていた。
>「目的物検出。防爆構造ハウジング内に高魔力反応体を確認。推定:
「“心核”、動いてるのか……?」
銃声の合間に、低く脈打つような《振動》が足元から伝わってきた。
倉庫全体が、鼓動に呼応するように微かに震えている。
>「注視:振動源は心核内部より発生。未知のエネルギー変換プロセス確認。圧縮蒸気と類似だが、構造不明」
「ユグド、映像記録開始。内部構造、解析可能な限り取っておけ」
>「記録モード起動──中継開始。推定:物質変換・位相歪曲フィールド展開中」
そのとき、後方から鋭い叫び声が響いた。
「心核に近づかせるなッ! あの女を殺せ!!」
残った黒鉄牙の一人が叫び、全員が一斉に攻勢に転じた。
>「戦況更新:残敵数3名、うち1名は蒸気式防盾装備、前方正面からの突入は損害リスク高」
「なら、迂回して“背中”を撃つ」
私はすれ違いざまに倉庫内の補修パネルへ跳び込み、裏配線ルートを潜って反対側へ出る。
敵の背後に出た瞬間、ショットガンから炸裂弾を2発──連射。
>「敵全滅確認。戦闘終了。心核への接近許可」
静寂が戻った倉庫に、心核の《脈動》だけが響いていた。
私はゆっくりと近づき、箱の制御パネルを開いた。
露出したのは──直径30センチほどの、球状の黒い“核”。
表面はガラス状に滑らかで、中心にかすかな“光”が浮かんでいる。
「……これが、心核」
>「構成物質、解析不能。魔導構造体ではあるが、使用されている魔法式は本世界の規格に該当せず。推定:異界性技術による生成物」
「異界性……」
私は知らずに手を伸ばしかけ──そして止めた。
──これは、触れた瞬間に“なにか”を壊す。
そういう直感が、背中を冷やした。
>「警告:心核周囲に低周波変調フィールドあり。干渉時、精神負荷・記憶干渉の可能性あり。非接触推奨」
「……面倒な代物を見つけちまったな」
私は写真だけを撮り、箱を閉じた。
ここから先は、情報屋バルドに回すしかない。
この“心臓”の正体を解き明かすには、私一人じゃ足りない。
心核の箱を閉じ、私はその場から一歩退いた。
煙の残滓と火薬の匂いがまだ空気に残っている。
「ユグド。死体から使えそうなものを選別してくれ」
>「了解。戦術データ照合を開始──推奨回収対象:以下の通り」
私はひとつずつ、倒れた黒鉄牙たちの遺体を調べていく。
彼らの装備は粗雑だが、整備されていた。訓練と物資の供給を受けている証拠だ。
>「回収対象1:機関式サブマシンガン《MCS-11》、損耗軽微。
回収対象2:実弾マガジン ×3(7.62mm対応)、予備グレネード1発。
回収対象3:個人携行式簡易シールド
回収対象4:金貨1枚、銀貨3枚、銅貨15枚」
「グレネードは状態確認しとけ。暴発とかゴメンだ」
>「安全ピン未引き抜き。薬剤反応も正常範囲内。戦術使用可能」
私はサブマシンガンのホルスターとマガジンポーチを拾い、腰の装備帯に追加する。
>「戦力評価:射程延伸、制圧力上昇。
火力構成更新:SBT-4(ショットガン)、MCS-11(サブマシンガン)、SC-γ3(散布カートリッジ)、TC-β2(熱圧安定型)、炸裂弾 ×2、グレネード ×1」
「装備が整ってきたな。……やっと“始まり”って感じだ」
回収した金貨を懐へと収め、敵の無線機や通信端末を破壊してから、倉庫を後にした。
背後で脈打つ“心核”の鼓動が、しばらく耳に残っていた。
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