第5話 襲撃

任務は単純だった。

 

 東部鉱山帯にある旧式の魔導炉跡──そこに「蒸気圧変動」が観測された。

 暴走遺物の可能性があるとのことで、ギルドが依頼を出したのだ。

 

 アイリスとカイルは、最低限の装備で現場へと向かった。

 地形は入り組んでおり、視界も悪い。崩れかけた坑道の壁、蒸気が噴き出す管、そして濃密な霧。

 

 「……蒸気、じゃないな。これは……冷却式の煙幕?」

 

 アイリスが眉をひそめたその時だった。

 

 ──ズッ、と何かが空気を裂いた。

 

 反射的にしゃがんだアイリスの耳元を、刃のような衝撃がかすめていった。

 

 「狙撃!? いや……近距離──!」


 彼女は即座にホルスターから銃を抜き、周囲を索敵する。

 

 ──だが、敵の姿はどこにもない。


 「カイル、位置報告!」

 

 「──死角! 左上ッ!!」


 その声と同時に、ユグドの戦術支援が脳内に重なる。


「敵性反応:2体。視認不可。使用装備:《光学迷彩外套》──旧世界製ステルスマント」


「推奨対応:遮蔽煙幕展開/敵の足音・圧力探知によるカウンター」


 アイリスは指先で小型の遮蔽煙筒を起動し、足元に投げた。

 爆発的に広がる白煙。


 「……姿が見えなくても、重さまでは隠せない」


 ──神経を研ぎ澄ます。音。気配。風の揺れ。


 カツ。

 

 わずかな靴音──そこだ!!


 振り向きざまにトリガーを引く。炸裂音。悲鳴。

 ステルス外套が破れ、銀の装甲服に身を包んだ男が倒れ込んだ。


 「っ、相棒が……!」


 もう一人が物陰から飛び出す。今度は迷彩を捨て、白兵戦用の魔導ナイフを構えていた。


 「……単なる追いはぎか。だったら容赦はいらない」


 アイリスは左腕を旋回し、背中の短剣を抜く。

 光と蒸気の閃きが交錯する──互いに一歩も譲らぬ近接戦。


 ──だが、経験と技術が違った。


 「……甘い」


 一瞬の隙に、アイリスは肩口へ踏み込んで銃口を押し当てた。

 至近距離、魔導弾──発射。

 

 蒸気と火花が爆ぜ、男の装甲が砕け散る。


 数秒の静寂のあと、再びユグドの声が響いた。


「敵部隊、全滅を確認。情報漏洩リスク低。引き続き、任務継続を推奨」


 アイリスは呼吸を整えながら、短く呟いた。


 「最低限の装備でも……殺れるさ。慣れてる」


 だが彼女は気づいていた。

 

 ──この遭遇は偶然ではない。

 この辺りを縄張りにする、探索者狩りの追いはぎ集団。


 ギルドに戻ったら、警告しておく必要があるだろう。


 「……余った装備は、換金して新しいジャケットにでも替えようかな」

 「いや熱源探知付きのゴーグルが先だ」

 そう言って、アイリスとカイルは倒した探索者たちの装備──光学迷彩外套、ナイフ、弾薬ベルト──を手際よく剥ぎ取った。


 カイルも肩をすくめながら言った。

 

 「ま、正当防衛だしな。売れるモンは全部換金して、次の任務に備えようぜ」


 坑道を後にする二人の背後では、冷たい蒸気が、まるで戦場の余韻のように立ち上っていた。

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