04 かなり強力なバリア張りを行かせてもらいましてですねえ

 あの男二人は、バイキンがよく主人公に呼ぶ「お邪魔虫」なので、女子二人で共に行動することとなった。


 それから、あたしはアミカ氏のおうちに転がり込んで、親友どころか、それ以上のカンケイになってしまったわああああ!


 何しろ、うちにいると「お邪魔虫」の介入が強制的に発動するからである。


 一緒にお風呂に入ったり、自分では見ることのできない身体のどこかをお互い見せ合ったり、悩み事言い合って泣きあったりする日々だった。本当の愛はここにある!


 「バリバリ★バリアフリーズ」って、そんな“ガール・ミーツ・ガール”で“ゆりエッチ”系アニメだったかしら? あたしが1話見る限りでは、寒いダジャレを言って、体中に氷のバリアが張られて、どんな攻撃に堪えられて強くなるぞーこれで街に現れたモンスター倒すぞーってイミフなストーリーだった気がしないでもないが、全年齢向けであればそのようなイミフでも構わないが、あたしたちのやってることはとても全年齢向けな描写とは言い難い!!! このままでは、例の“良き船の映像”になってしまうだろう。


 アミカ氏はあたしの不平不満を黙って聞いてくれたから、超やさしいお姉さまである。おそらく前世のあたしよりも少しお年上だと思われ、あたしの辛辣すぎる口調に堪えられる器の大きさがあるのだから、オトナなお姉さまである。


 あたしが転生者であることも理解し、あたしの前世の氏名を言ってあげたらすぐに調べてくれたらしくて、どうやらあたしはバイクに轢かれたらしい。あたしは歩きスマホしてて轢かれたのだと思ったら、この日はスマホを忘れていて不所持だったのだそうで、自宅にスマホがあったらしい。あたしは、自分自身が死んでしまったパニックで歩きスマホして死んだのだと思い込んでいたようだった。


 察しが良い読者の皆様ならお分かりの通り、あたしを轢いたのはバイク便で、その荷物の中には「バリバリ★バリアフリーズ」に関する納品物が入っており、例の監督からレコード会社に届けられる途中だったが、あたしはこのレコード会社近くで正午すぎに亡くなっていたらしい。おぼろげな記憶ではスマホ忘れた腹いせに野菜沢山の高級サンドウィッチを買いにおカネを下ろすか残高確認するためATMに行く途中だったような気がしないでもない。殺すどころかランチまで取り上げたのかよあんのクソ監督!! まあ悪いのはバイク便だろうが!!!!


 あの監督が未だにバイク便を使っていたのだろうか、今であればインターネットでデータ納品など楽勝なはずだが、昔からの風習なのか紙の書類がいくつか必須なこともあるのだと言う。


 あたしだって自分自身の口の悪さは自覚してるし、自虐しながら自分でショックを受けながら、項垂れるほど落ち込むくらいなのだから、あたしの舌禍はきっと自他問わずに殺傷能力がある。例えるなら、自分の毒で死ぬフグで、自分の屁で死ぬスカンクである! そう思うと我ながらアホウである!



 アミカ氏はフリーの女性声優、カワムラカオルーン氏が中の人であり、実質、アミカ氏の愚痴イコール、カワムラ氏の愚痴なのであった。


 声優さんの愚痴は、ここでは表現できないことばかりで、舌を巻いた。あたしのような同じ職場にずっと行き書類を提出するだけの仕事とはちがう。


 あたしが聞いた限りでは、就活と言う名のオーデションと、修行と言う名の薄給&トレーニングの繰り返しでしかなかった。 よほどの情熱と才能を持ち合わせないとなれないし、ましてや選ばれし者の中の選ばれし者の頂点を目指さないと仕事がない。 それによって同業者以外との出逢いがないほどの多忙さでありながら、恋人ができたり結婚すればファンからボロカスに言われるなどよくあることらしいし、根拠と根も葉もない噂でもボロカスに言われる理不尽さまであるのだとか。 アニメで主人公など修行して原作に追いつかないように時間稼ぎするようなシーンを描く作品があるが、声優をやめるまでは、永遠にあれみたいな修行であり試練であると言うほどの厳しさであった。 おそらく歌って踊るアイドルの皆様もそういう厳しさがあるのだろうと想像に難しくない。


 あたしなら御免被るし、暴言ばかり言うのでハナっから向いてない。ハナだけに!!


 なので、あたしは誰も読まないであろう、商品の注意書きやマニュアルやカタログなどの書類を作成するのみだ。ははは。そう言えば、あたしが死んだもよりのレコード会社からの発注もあったな。主に特典商品とかで。「子どもの口に入れないで下さい」的な、バカがバカやってキレられても、それを読まないバカが悪いと言えるための書類だ!!


 あたしにかかれば、クレーマーの心理などお茶の子さいさい。誰も突っ込む余地をあたえないようにしてこれたが、あたしが死んだことでそれが途絶えたと思うと、ざまあ味噌漬けである!! 笑えんわボケカス!!


 


 今日も今日とて、アミカ氏は苦い表情を浮かべながら愚痴を吐き出した。これは彼女のためでもあるが、あたしの好奇心が勝っているのである。


「このアニメのDVDとBRを発売するのは“トゥルーリー・アンド・オネストリー・サニーレコーズ”。通称“サニーレコード”だから。わたしがこのアニメに出演する条件には、そのレコード会社専属で歌唱楽曲を持たなくてはいけなくなったってわけ⋯」


「で、歌うの?」


「だって、あの監督じゃないですか⋯。作詞作曲編曲は例によって“ワイがやる”とか言ってきて、しまいにはデュエットだって⋯」


「うわうわぁ、お邪魔虫ですねーーー」


「ほんとですね⋯。わたしはそもそも音楽を制作する側で、その傍らで“仮うた”って、歌手が決まってない時にサンプルで歌唱を入れることをやってたんですが、いつの間にか声優になっていまして、そういう経歴を監督とレコード会社のピーは知ってて、わたしを即採用したんでしょうけど⋯」


 


 ピーと言うのは、プロデューサーのこと???


 業界人のみな皆様って、皆様が知ってる前提で専門用語で使うもんだから、あたしのような一般ピーポーには、「ピー」なんて、発言を規制する効果音か、テレビがカラーバーを表示している時に発する正弦波音かと思ったわ!! あれさあ!「ピーー」ってか、むしろ「ポーー」って聴こえるのだけれど? なんでみんな「ピーー」って言うのさ?


「わたしたちで歌うとかできませんかね? アミカ・エーケーエー・カワムラさんには負担かかりそうですが?」


 エーケーエー(a.k.a)は、あたしには何の略かは分かりゃしないのだが、「またの名を」とか「~こと~」という意味だったような気もする。これは別に専門用語ではなく、得意気に使いたがる中二病患者は多いのであたしにだって知っているさ!!


「わぁっ!! それ良いですね! ギリハナちゃんと一緒なら負担なんかゼロです! やりましょう!」


「え?」


 いつしか、アミカ氏はあたしのことを「ギリハナちゃん」と呼ぶようになっていた。彼女曰く、「ギリ」ってところがあたしの辛辣さで、「ハナ」ってところがあたしのやさしさであると言ってたのだけれど、あたしには理解が及ばなかった。こんなあたしのどこがやさしさだと思ったのかしら? まぁ、彼女があたしを好いているから、彼女にはよくわかるのでしょう? それはお互いそうなのだから。


 そんなわけで、あたしたちはレコーディングに行くことになった。「サニーレコード」で。


 このレコード会社の名前は胡散臭い。


 どこかの会社に響きを合わせに行っているとしか思えないし、それも複数あって「○ニー」どころか「○ニーなんとか」まであって、そこ以外で「なんとかニー」を名乗るレコード会社は、フィッシングメール並みに胡散臭いことこの上ない!! まぁ、実際のフィッシングメールは会社名をご丁寧にもじることはせず、文章の日本語のほうを面白おかしくもじっていくほうだけども!!


 


•*¨*•.¸¸.•*¨*•.¸¸.•*¨*•.¸¸•*¨*•.¸¸.


 


「やあ!おふたりさん。ひさびさじゃん!」


「カタギリちゅああん! ウエブすわゎゎーん あいたかったでヤーーーンスッッッッ!!」


 


 あ⋯。


 うわああああああああぁぁぁぁ~~⋯。


 


 まーこれが主人公ら補正ですよねー。


 って、アニメどうこう以前にテレビ番組において、主人公が出ないと不満を覚えるのは、何も視聴者だけではないだろうし!! いろんな思惑があるだろし!!!


 黄色っぽい目玉に、銀色で赤いラインが目立つビルよりも巨大な変身ヒーローのように、3分しか登場できないという特撮コストの制約的都合で、主人公をレアにさせる手もあるが、実際はそうではない。


 マヨネーズがおいしい某クッキング教材番組のように、3分などと言うのは名ばかりで、あれは「3分」という短そうで魔力量の多い魔法にみなが騙されているだけだ!! 実際3分以内だった試しがあっただろうか!?


 山の上のお空にバイキンが飛ばされる子ども向けアニメでも、つぶあんの入ったパンとバイキンは必ず登場し、他のキャラはストーリー上の都合か、声優さんの都合で、登場してこない回が存在することはザラにある。


 それとおなじアニメ会社ではあるが、“ちがうほうのパン”のアニメだと、主人公1人と、レギュラー3人と、インターポールのとっつぁん1人が、1話以内には必ず登場させるように取り決めたとするシリーズがあるが、これは大人向けのアニメであるため、大人を飽きさせないため、豪華にさせたんだろがい!! 話がそれて、3分が3世の話になってしまったやろがあああああああい!!


 もう!!


 


「ゲゲゲー! なんてあんたらが居るんだよ!!」


 


 あたしは思わず、腹から声が出てしまった。彼らには嫌悪感しかないからな!!


 アミカ氏は予測可能回避不可能とばかりに笑い声をもらした。


「ふふっ そうでしょうねっって思いましたけど、ギリハナちゃん」


 すると、レコード会社のピーとか言うひとが挨拶に来た。監督はいない。あの2人が実質的に監督なのだから。


「はい、はじめまして。ティーエイチサニーのオートモどぇ~~す」


 名刺を出してきたレコード会社のピーことプロデューサーのオートモ氏は、顎が左右に鋭く突起している二重アゴのおじさまであった。


「カタギリハナと言います。ウエブアミカさんの親友です。よろしくお願いします」


 あたしに親友と言われたアミカ氏の目は、明度と彩度と輝度が格段にアップしていた。そこまでうれしいか? あたしも親友に親友と言われるのはうれしいけど、そこまでか????


「うっっはっ! エブアミにも春が来ましたかって、相手は同性かーーい! どうせっっちゅうねーーん!! うっっは!!!!」


 オートモPに氷のバリアが張られて、「バリバリ★バリアフリーズ」というタイトルに相応しい展開をやっと見せたのだが⋯。


「こっっれは、かなり強力なバリア張りを行かせてもらいましてですねえ!! うっっは!!!!」


 二重アゴのおっさんの氷漬けは、すごい輝度をましていたし、アミカ氏の目の輝度もあがっていた⋯。なんだこれ!


 


 おい!!! 主人公と連れザンス!!!


 棒立ちしてんじゃねええええよ!!!!!!


 このバリアのくだりをやるのは、あんたらやろがあああああああい!!!!!


 あたし、頭が少し痛くなってきた。


 なぜかって??


 


 あたしが、なぜか監督をやりたくなってきたからだっ⋯。


 

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【カクヨム版】転生したらなんでも一人でこなす男性監督による低予算OVAのヒロインちゃんになったので、こんな世界はあたしが全部ぶっ壊します!! #低予算OVAのヒロインちゃん @weep

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