エルフの森をキャンプ地とする! ~ブラック企業を退職してきた俺が妹とBBQをしようとしたらエルフの森で焼けてやんの え、職業【ピットマスター】ってなによ?~
ウサクマ
プロローグ・この世界をキャンプ地とする!
始まりの異世界転移・ビーフステーキ添え
俺の名は【
今日はおよそ半年振りの……上司に辞表を叩き付けながらぶん殴りつつ、同僚達と協力しながら集めた悪事の証拠を労基に提出しながら訴えて得た休日。
明日からはハロワに通わねばならないが、3ヶ月前から部屋に引きこもっていた俺の可愛い妹の
可愛い妹の相談はブラック企業の業務よりも優勢して然るべき、故人もそう言っている、むしろ言え。
無断欠勤をしなかっただけマシだと思って貰いたいが、そもそも200連勤なんて押し付ける会社が労基の視察を経た後に残る可能性はとてつもなく低いからどっちでも良かったか?
まあ、あのクソ上司とブラックな会社はどうでもいい……いや、やっぱりゴミ上司はもう50~60発ぐらい殴っておくべきだったな。
それはともかく、可愛い妹が通っていた空手道場の門下生が強盗に殺されたと聞いて以来ずっと塞ぎ混んでいたからな……たまには外の空気を吸った方がいいと思ってバーベキューでもとキャンプ場へ来た……筈なんだが?
森林浴も可能で、近くに川が流れて釣りも出来る、薪や木炭は事前に申請した分を用意してくれる……そんなキャンプ場を借りた筈なんだがなぁ。
木々は燃え尽きて、川の水は土の色で、木炭はまだしも薪が存在していそうにない……オーナーに電話しようにもスマホは圏外ってどういう事だ?
ってクズ上司からの着信履歴が物凄い事になってやがる……電源落としてたから気付かなかったが着信拒否しておけば良かった。
「お兄ちゃん、ここ……どこ?」
「……解らん、少なくとも予約していたキャンプ場じゃないのは確かだな」
少なくともこんな状況なら間違いなくニュースになってるだろうに……
そりゃ新聞やテレビなんて見る余裕がないぐらい疲れてたのは確かだし、正直運転するのも怖かったぐらいだがな。
そんな状態で運転してんじゃねぇって?
バーベキューの為なんだから仕方ないだろ。
「……うん、解らん事を考えても仕方がない、とりあえず肉を食おう」
「……お兄ちゃんのそういう所、尊敬するよ」
可愛い妹に尊敬された所で、早速用意しよう。
作るのはバーベキューの定番、牛肉のステーキだ!
とはいえ今年で13歳の可愛い妹は太るのを気にし始める年頃だし、俺の胃は3年に渡る過酷な労働のせいで脂がキツい……よって使うのは赤身のランプ肉、牛の腰からお尻に辺る部位だ。
脂肪はほとんどないのに柔らかく、噛む程に肉の旨味が溢れる……個人的にサーロインやリブロースよりも美味しい部位だと思っている。
まあ2kgで6千円もしたが可愛い妹との会話もロクに出来ないぐらいコキ使われたせいで金なら余っているからな……今日は思い切り贅沢してやる。
「よし、まずは……それなりに固い炭を集めて、コンロの片側に詰めてっと」
俺の趣味であるバーベキューの為に買った蓋も出来る球体のバーベキューコンロ(税込4千円)、燻製や蒸し焼きも出来る凄い奴だが、日本の住宅地で使ったら通報待ったなしなのが欠点だ。
初めて使った時なんて消防車を呼ばれて大変だった……ちょっと燻製を作ってただけなのに。
詰めた炭の所々に水に濡れても火が付く着火材(1袋20個入り、800円)を仕込んで、火を付け……あれ?
まだライターを使ってないのに燃え出した……もしかして鎮火してなかったのか?
まあいいや、ちゃんとした木炭と違って時間が掛かりそうだけど何とかなりそうだな……火が安定するまでに肉の下拵えを済ませよう。
ランプ肉はおよそ1~2cmぐらいの厚さにカットして、ステーキっぽい見た目になる様に形を整えて……周囲に切り込みを入れたらフォークで乱雑に刺してやる。
こうすると肉が柔らかくなるし、焼いている最中に反り返ったりしなくなる上に中まで味が入るからな……
味付けはシンプルに塩コショウでもいいが今回はあえて醤油だ。
これを焼く前に塗って、両面を焼いた所で更に塗れば香ばしく仕上がる。
何より可愛い妹は醤油味の牛肉が好きだからな。
さて、炭が燃えた所で醤油を塗った肉を直火で炙り……僅かに焦げた所でひっくり返す。
反対も同じ様に焼いたら炭を置かなかった方に移して、醤油を塗って蓋をする。
大体5分ぐらいしたらひっくり返してまた醤油を塗って、蓋をして……
アルミホイルを用意して、焼けた肉を包んで暫く休ませて、その間に付け合わせの準備をしよう。
アルミホイルで容器を作って、バターを塗って……
そこにベーコンを敷いて、薄切りにしたジャガイモ、タマネギ、シイタケ、黄色いパプリカ、塩コショウ、ガーリックパウダー、トマトの順に乗せて、最後にバターを1欠片入れたら包んで、と。
直火が当たらない位置に置いたら蓋をして……暫く待つ、以上。
「お兄ちゃん……何だか楽しそうだね」
「ん?まあ……久しぶりのバーベキューだし、可愛い妹と二人っきりだからな、楽しくない訳がないだろう?」
「……シスコン」
「否定はしない!」
可愛い妹が居る兄や姉は例外なくシスコンになるのが
もしシスコンではない兄や姉が居るとすれば、妹が可愛いと思えない病気だろう……兄貴と同様に、即座に入院する事をオススメする。
もしくは妹に何かしらの問題がある可能性もあるが……まあ居たとしてもレアケースという奴だろう。
「本当にお兄ちゃんって正直だよね……私は最後まで素直になれなかった……仲良くしたかったのにずっと突っかかって、その度に組手で負けて……それなのにモモちゃんは優しくて」
……強盗に殺されたという門下生は可愛い妹が仲良くしたかった子だったのか。
確かにこの可愛い妹はツンデレな性格をしているからな……強盗のせいで素直になるタイミングを逃してしまったのが悩みという訳か。
とはいえ優しかったんなら嫌ってはいなかったと思うが、確認する手段がない以上憶測でしかない。
成程、これが相談の内容だな……想像以上にヘヴィだった。
「俺が園児の頃、仲が良かった勇一って奴と大喧嘩をした事があってな……それから一週間ぐらい口を聞かなかったんだが、いい加減謝ろうと思って幼稚園に行ったらそいつ……転園しちまってたんだ」
その後は未だに会えていない……今は生きてるのかどうかも定かじゃない。
近年では興信所とか探偵、ネットの情報なんかを駆使すれば探せるだろうが……見付けた所で何を話せばいいのか解らないし、相手が俺を覚えていない可能性もある。
唯一解っているのは親父さんが名古屋で肉屋を開業する事になった、ぐらいだな。
可愛い妹の悩みに比べれば相手が生きてる可能性がある分軽いが、素直になれなかった故の後悔という点は共通している……多分。
「俺が馬鹿正直になったのはそんな出来事があったからだ……もうあんな思いはしたくなかったし、どうせ喧嘩するなら自分に正直でありたかったからな」
休ませていた肉を食べやすく切って紙皿に盛り付け、コンロからホイルに包んだ野菜を取り出し開ける……うん、いい匂いだ。
肉もいい感じのミディアムに仕上がった……ステーキはミディアムレアが一番美味いという話はよく聞くが、俺と可愛い妹はミディアムが好きなのだ。
可愛い妹の相談中に何をしてるんだって?
バーベキューに決まっているだろ。
折角作った物を台無しにするのは食材に対する冒涜、絶対にしてはならない……可愛い妹の次に大事な事だ。
「今すぐ割り切れる様な事じゃないのは解ってる、こればっかりは自分で納得するまで悩むしかない……少なくとも俺は苺心が元気になるまで支えてやる、出来る事がそれくらいしかないからな」
「うん、ありがと……ちょっとだけスッキリした」
ちょっとだけ、なのか……まあ進展があっただけ良かった。
ウチの両親は学歴主義者で高卒で就職した俺は空気扱いだし、可愛い妹が引きこもった途端に理由も聞かず見放す様なロクデナシだからな……元々好きではなかったがあれは決定打だった。
まあ兄貴が大学院に進んでるから意識はそっちに向いてるお陰で干渉されないのは有難かった。
可愛い妹を連れての引っ越しも簡単に出来たからな……当然スマホの番号も変更したし住民票も閲覧制限を掛けた。
長男な兄貴は勉強しか出来ない頭でっかちだから社会に出た所で長くは続かないだろうしな……まあとにかく、可愛い妹の味方が俺しか居ないならば全力で支えてやるのが兄貴という生き物だ。
俺の兄貴?中学校に入った時から会話した覚えがない……というか可愛い妹の顔すら解ってない可能性が高い、ある意味可哀想な奴だな。
同情する気は全くないが。
「それじゃ、そろそろ食うか」
「……うん」
「お兄ちゃんって普段の料理は普通なのにアウトドアだと凄く美味しく作るよね……何で?」
「スマンな……長時間労働で疲れてたのもあるが炭火でないと気乗りしないというか、何故か美味しくならないというか」
我ながらよく解らんが、肉でも魚でも……何なら野菜であってもガスコンロでは普通の味にしかならんのだ。
唯一同じ味になるのは炊飯器で炊いたライスぐらいだからな……何故こうなるのかは謎だ。
普段の料理なら可愛い妹の方が美味く作れるだろう。
「うん、野菜も美味しい……バターが多くてベーコンまで入ってるからカロリー気になるけど」
「安心しろ、ベーコンは調味料だし苺心は多少太ったって変わらず可愛い」
「ベーコンが調味料って初めて聞いたんだけど……可愛いとか、お兄ちゃん以外の男の子に言われたかったな」
ハハハ、面白い事を言うな。
可愛い妹を何処の馬の骨とも知れない輩に渡す訳がないだろう?
認めるとしたらそいつが俺より可愛い妹を大事にするだろうと確信した奴だけだ。
「お兄ちゃんに彼女が出来るまで恋愛する気はないけどね?」
「……色々とスマン」
何故か俺は可愛い妹以外の異性に縁がない……何故だ?
別に興味がない訳ではないし、昨日まで勤めてたブラック企業にもそれなりに女性社員が居たから出会いがない訳ではない筈なんだかなぁ。
ついでに言っておくが、俺はシスコンではあるが妹と結婚したいとかは考えていないし恋愛にも興味がある。
ちょっとだけ人より妹愛とバーベキュー欲が強いだけで他は至ってノーマルだぞ。
「お、お兄ちゃん……後ろ!」
「後ろ?」
何かと思えば鹿か……鹿にしてはゴツいというか、角が燃えてる様な?
まあコンロにはまだ火が残ってるし、鹿なら人を見れば逃げてい……ってこっちに向かってくるのかよ!
俺一人なら逃げてしまう所だが、そうしたら可愛い妹がこの畜生の餌食に……それだけは許さん!
可愛い妹を持つ兄貴は何処までも強くなければならんのだ!
とはいえ素手ではどうしようもないが……俺にはこの、俺がこの世で唯一尊敬している偉大なるピットマスター(故人)が考案、製作したブッチャーナイフ……通称聖剣がある!
包丁としては勿論、鍋やフライパンの中をかき混ぜるヘラの代わりになる、パン生地を捏ねるのにも使える、肝心な切れ味も骨や冷凍肉すら簡単に切れる、お手入れも簡単な万能ツール……ネット通販で送料別の一万円!
こいつで首を切り落としてやる!
やや苦戦して、燃えてる角が引っ掛かったせいで上着が消し炭になってしまったが何とか勝てたぜ。
運動不足が祟ってメタボ気味な腹が出ているのが恥ずかしいけど、まぁ命があっただけマシだろう。
「腹筋が4つに割れていながらメタボって、世の中の女性に喧嘩を売る発言だよ?」
「ちょっと前までは6つに割れていたんだがなぁ……暇を見つけたら鍛え直すか」
まあ俺の腹筋は置いといて、とりあえずこの鹿は捌いて食うか。
バーベキューをしていれば野生動物を狩って食う事もあるからと解体の知識はあるからな。
それに鹿は低脂肪で柔らかい、可愛い妹好みの肉だから無駄にはせん。
「お、お兄ちゃん!右!右を見て!」
右……今度は熊でも出たのか?
流石に可愛い妹が居る兄貴であろうと熊に勝つ自信はないんだが?
って銀髪の女性?
「もうアカン…………はらぁ、へったわぁ」
何故に関西弁……あ、倒れた。
って放っておく訳にはいかんな。
「お兄ちゃん、この人……エルフみたいじゃない?」
そういえば可愛い妹はファンタジーなゲームやアニメが好きだったな。
俺も嫌いじゃないが就職してからはご無沙汰だったなぁ……帰ったら少しぐらい遊んで視聴したって罰は当たるまい。
ってそんな事を考えてる場合じゃなかった。
「確かに耳がやたらと長いけど作り物じゃ……なさそうだな?」
勝手に触ってしまったが気を失ってるし……バレなきゃ大丈夫だろ、多分。
色々聞きたい事もあるし……起きるまで鹿を解体して待つとしよう。
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