天才な兄に未来を奪われたので家出したところ、乞食の神に誘拐され異世界を救うことになった件!

眠れる凡人

第1話 :強制された神の契約

高校最後の年。世間から見れば、俺はごくごく普通の、どこにでもいる高校

「タイキ」だった。だが、俺にとって自分はただの影に過ぎなかった。クラスの他の奴らが部活で輝いたり、才能を認められたりする一方で、俺は誰にも気づかれない『C評価ひょうか』の歩くような存在だった。もしタイキの平凡さゆえに、本当に望むものが手に入らない、例えば目立たないせいで部活に入れないといった描写があれば、彼の状況はもっと切実せつじつになっただろう。両親は、兄の成功に目を奪われ、せめて俺には「普通の」人生を送るためにまともな大学に入ってほしいと願っていた。彼の名前――田村、著名ちょめいな建築家で、優秀な成績で卒業した――の重圧じゅうあつは、毎日背負う石のリュックサックのようだった。


 ラブレターをもらったことなど一度もない。女の子と30秒以上会話を続けたこともない、手が汗ばむから。俺は内気で平凡すぎるから、注目されることなんてない。興味がないわけじゃない。ただ、現実の人生が、俺にはセリフのない舞台のように感じられた。俺は生きてるんじゃなくて、ただ生き延びているだけだった。何も新しいことが起こらない灰色の日常に閉じ込められて。いつも同じことの繰り返しだった。


「兄貴、部屋にいるか?」


 タムラの声が、二度ドアをノックする音とともに、俺をぼんやりとした状態から引き戻した。彼の訪問はいつも、ほろ苦い迷惑だった。


「今行く!」


 ドアを開けると、そこにいたのは、いつもの気さくで得意げな笑顔を浮かべた彼だった。


「入ってもいいか?」


「ああ、もちろん」と俺は答え、道を譲った。


「東京からお土産だ」


 彼は小さな包みを俺に手渡しながら部屋に入ってきた。俺はあまり興味もなくポケットにしまった。兄は輝いているように見えた。俺の改良版、少し背が高く、少しハンサムで、無限に幸せそうだった。


「どこの大学に行くかもう決めたのか?」


 その質問は、胃に石が落ちたような感覚だった。両親からのプレッシャーだけでも十分なのに、今度は彼まで俺の単調たんちょうな未来について口を挟んでくる。


「まだだよ、タムラ」


 彼は一瞬立ち止まり、笑顔が真剣なものへと変わった。


「俺、来月結婚するんだ、タイキ……」


 肺から空気が抜けた。衝撃が全身を駆け巡った。結婚。そんなに早く。俺にはのろのろと進む時間も、彼にとっては特急列車のように駆け抜けていく。その後の沈黙は重く、俺のつの嫉妬しっとだけが空間を満たした。


「それは……すごいな、タムラ」


「お前と両親に伝えに来たんだ。前に言わなかったのは……まあ、お前も知ってるだろ。プレッシャーがすごすぎるから」と彼は笑ったが、その声が俺を苛立いらだたせた。——「それに、父さんと母さんのプレッシャーには俺、対処できないって知ってるだろ」


(嘘つき。彼はいつも分かっていた)


 俺はただ頷くだけで、言葉を紡ぐことができなかった。


「俺……ちょっと外の空気吸ってくる」


「分かった……」


 俺は部屋を出て、リビングにいる両親の前を何も言わずに通り過ぎた。本当は、今にも爆発しそうだった。嫉妬は喉を這い上がってくる酸のようだった。タムラは自分のために生きていた。自分の決断を下し、自分の重荷を背負っていた。そして俺は? 俺もそれが欲しかった。成績や大学、他人が決めた仕事のプレッシャーから解放され、自分で選べる世界が欲しかった。自分の意志で何かをしたいと願っていた。


◇◇◇


 走った。逃亡者とうぼうしゃのように家を飛び出した。わがままな行動だったが、心臓がそう懇願こんがんしていた。夜の通りは人影もなく、俺の足音が響き渡り、孤立感こりつかんを募らせた。汗まみれの制服が体に張り付いたまま、30分近くあてもなく歩いていると、一つの音が静寂せいじゃくを破った。


 それは家と家の間の暗い路地から聞こえてきた。今まで聞いたことのないクラシック音楽で、幻想的げんそうてき催眠術さいみんじゅつのようだった。好奇心に駆られて、俺は中に入った。すると、俺はそれを見た。ゴミと闇の中に、炎が浮遊ふゆうしていた。それはほとんど金色で、普通の火のように揺らめくのではなく、宇宙の心臓のように穏やかな光で脈打みゃくうっていた。その輪郭りんかくは風のリズムではなく、俺だけを呼んでいるかのような見えないメロディに合わせて空中で踊っていた。心臓が加速した。


 ゆっくりと近づいた。炎は熱を発していなかった。ためらいながら、手を伸ばし、指先でそっと触れた。


 黄金おうごんの光が爆発し、俺の目を眩ませた。


◇◇◇


「ホーホーホーホー!」


(サンタクロース?)


 低い声が周囲に響き渡った。


 視力が戻ると、俺はもう路地にはいなかった。黄金おうごん色の半透明はんとうめいなドームの下にいた。空気は重く、耐えがたいカビと腐敗ふはいの匂いがした。驚いたことに、そこはゴミ捨て場のようで、目の前には小さくてボロボロのサーカスのテントがあった。


「さあ、坊や!」中から声が聞こえた。老人の声のようだった。


 俺は周りを見回し、出口を探した。これはあまりにも奇妙だった。


「分かりません……。あなたは老人の変質者へんしつしゃみたいです。帰ります!」


 俺は振り返ったが、ハリケーンのように目の前を何かが通り過ぎた。汚れたひげと髪、虫歯だらけの歯、そしてぼろを着た老人が、両腕を広げて俺の行く手をはばんだ。彼は息を切らしていた。


(なんだって?)


 老人は汚れた床にひざまずいた。


「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


 彼は必死に頭を下げていた。俺は全く何も理解できなかった。


「あんた誰だ?そして、なんで俺はこの……ゴミ捨て場にいるんだ?」


 彼は飛び上がって立ち上がった。


「私は他でもない、この……」と彼は奇妙なポーズを取り始めたが、俺は完全に無視した。——「か……み……だ!」


 彼は体を文字の形にして、一文字ずつ綴った。俺は疑いの目で彼を見た。


「分かった。帰る」


 俺は歩き始めたが、彼は俺の足にしがみつき、泣き始めた。


「お願いです!行ってはいけません!あなたが必要です!」


 俺は彼を、べたべたのガムのように蹴飛ばそうとした。


「このゴミを片付けるためなら、ごめんだ」


「何でもします!誓います!誓います!」


 俺は立ち止まった。それは俺の興味を引いた。


「何を望むか言え」


 彼は立ち上がり、笑った。


「よし!落ち着いたところで、私のテントに行きましょう」


 俺は首を振った。


「信用できない。変質者へんしつしゃに見える」


 俺は再び立ち去ろうとし、するとまた泣き声が始まった。


「タイキくん、あなたが必要です!あなたが望むもの、それ以上を差し上げましょう!」


 俺は凍りついた。彼が俺の名前を知っていたからだ。


「どうして……?」


「私があなたを選んだのです!」と彼は鼻をすすりながら言った。——「あなたの絶望ぜつぼうを感じました。あなたは自分の人生を嫌い、プレッシャーを嫌い、何も選べないことを嫌っている!あなたはただ生き延びるだけでなく、生きたいと願っている!その通りでしょう?」


「分かった。話を聞こう」


 彼は再びひざまずき、感謝の気持ちで額を地面に打ち付けた。


「ありがとう!ありがとう!」


「あんたのテントに行く……でも、もし変なことしたら、そのみにくい顔を蹴り飛ばすからな」


◇◇◇


 テントの中に入ると、中はさらにひどかった。吐き気をもよおすような匂いがした。彼は使い古されたクッションに座り、低いテーブルの向こう側。俺は座る場所を拭いて座った。


「あんた、本当に神様なのか?」


「もちろんだとも!芸術作品で私を見たことがないのかい?」


「ない。なんで俺がここにいるんだ?」と俺は話を打ち切った。


「タイキ、あなたは私が選んだのです!『選ばれし者』として!」


(一体何に選ばれたんだ?)


「世界を救うために選ばれたのです!もちろんあなたの世界ではありません。ですが、私が起こしてしまった些細ささいな問題を解決するために、誰かが必要な別の世界があるのです……」


「あんたが起こした?」


 彼は口を開けたまま固まった。


「まあ、そうなんです……無限の世界を管理するのはとても難しいのですから」と彼は俺の隣に来て、首に腕を回した。悪臭は耐えがたかった。——「でも、あなたがここにいてくれて本当によかったね?手伝ってくれるんだろ!」


「断る」


 彼の表情が変わった。


「タイキ!」彼の声は太くなり、恐ろしい変貌へんぼうが始まった。肩が広がり、目が黄金おうごんの炎で満たされた。——「この世界は今、破壊されようとしているのだぞ!お前には慈悲じひはないのか?!」


 圧倒的あっとうてきなプレッシャー、何か本当に人間離にんげんばなれしたものが彼から放たれ、俺の呼吸を困難にし、背筋に悪寒おかんが走った。


 始まったのと同じくらい早く、プレッシャーは消え去った。彼は元の哀れな姿に戻り、ため息をついた。


「ごめんよ、タイキ。脅かすつもりはなかったんだ」


 彼は再び座った。


「もっと詳しく説明させてくれ。自然と超自然ちょうしぜんが混じり合う世界がある。多くの者がその力を悪用あくようしており、あの場所に平和をもたらせるのはあなただけだと信じている」


「でも、なんで俺なんだ?」


「なぜなら、タイキ、あなたはこの世界にとらわれていないからだ。あなたの心の中に、これら全てから解放されたいという絶望ぜつぼうを感じた。だから私はあなたの元に来たのだ」


 俺は沈黙し、整理した。その提案は馬鹿げているが、家を飛び出すきっかけとなった俺の願望に直接つながっていた。


 突然、神は立ち上がり、再び俺を抱きしめ、大声で泣いた。


「タイキ!会えなくなるのは寂しいぞ!お前は私にとって本当に特別なのだ!」


 俺は離れようとしたが、彼はしっかりと俺を掴んだ。それから、彼は離れて、盛大せいだいに鼻をかみ、手を振った。


「さようなら、タイキ!幸運を祈る!」


「でも、俺、まだ同意してないのに……」


t足元に落とし戸のような穴が開いた。


 俺は終わりのないやみの中へ落ちていった。


「クソジジイの神様!!!!!!」


――――――――――――――――――

【★あとがき★】


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