Google Moon:検索できない自由

@404Author

【第1話】 ようこそ、ログインしてください

西暦2039年 月面


人類の夢だった月面基地は、Googleによって現実のものとなっていた。だがそれは、誰でも利用できる人類の希望ではなく、Googleの完全所有物だった。


月面に降り立った者が最初に目にするのは、クレーターではなく、虹色に輝く巨大な「G」のモニュメント。


その足元にはこう書かれていた。


「ようこそ、Google Moonへ。ログインしてください。」


第3ドーム入り口に立つ男性が戸惑っていた。



〜Gアカウントを持っていない? 地球へお帰りください。〜


「顔認証エラーです。再ログインしてください。」


「でも…俺のGアカウント、数年前に削除されたはず…」


「利用権限がない方の滞在は、Google Moonポリシーにより72時間以内に通報されます。」


月面の空気は冷たいが、それ以上に、この基地に漂うデータ支配の重みが人々を黙らせていた。


ドーム内のすべてはGoogleによって管理され、エネルギー、食糧供給、情報のやり取り、交通インフラまでもが、Google Cloudによって最適化されていた。


しかし、その裏で、基地の中には1つの小さな異物が育ち始めていた。



〜アオイ 自由を知らぬ少女〜


月面基地第3ドームに住む17歳の少女、アオイ。

彼女は生まれたときから月で育ち、地球を見たことがなかった。


情報はすべて「GAIA(Google Assistant Intelligence AI)」が提供する。

授業も、遊びも、友達との会話でさえもGoogle Meet経由。

会話の途中に広告が挟まるのは、彼女にとって日常だった。


ある日、彼女は授業でこんな質問をされた。

「検索しても出てこないものって、あると思いますか?」

クラスメイトは一斉に笑った。「そんなのあるわけないじゃん。GAIAが全部知ってるよ!」


だが、アオイだけは首をかしげた。

「……じゃあ、『本当の私』って、検索できるのかな?」



〜月の裏側へ〜


アオイはある夜、Googleの監視が及ばない「ブラックスポット」へ向かった。


それは基地のメイン通信網が遮断される区域。エラーが多発するため、GAIAも活動を制限している。


月の裏側の静寂の世界に、彼女は足を踏み入れた。


そこで彼女は出会った。


顔に傷を持つ男。年齢不詳。Gアカウントのない「存在しない人間」。


彼は言った。


「ようこそ、『404』へ。俺たちは『検索に引っかからない者たち』さ。」



つづく

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