第5話 結婚
目を開けると自室のベッドで朝になっていた。
下に降りると父はニュースを観ながら朝食を取っていて、母は私と自分の朝食をテーブルに並べていた。
「あら、おはよう。昨日食べずに寝ちゃって。本当に疲れているのね。ほら、早く食べなさい。」
笑顔の母を見ながら何か忘れている気がするけど何かが思い出せなかった。
モヤモヤしながも朝食を食べて出勤した。
それから1ヶ月後に星と奈緒は挙式をした。村全員が参加をした。
綿帽子を被って白無垢に身を纏った奈緒の表情は全く見え無かった。星は奈緒の前を羽織袴で進んで行く。星は喜びを隠す事無く緩んだ表情で皆んなに会釈をしながら神社へと向かって行く。
あれだけ和哉への想いを持って居たのに、1ヶ月で星に嫁入り出来るのだろうか。
鳥居を潜り本殿へと進む。昔からの村民だけが本殿に入り着席した。暫くすると懐中烏帽子を被り狩衣を纏い神宮用袴を履き、手には笏を持った和哉が入って来た。
「畏、畏申す。」
和哉の透き通る色気がある声が響く。和哉の祝詞が終わると和哉の前に星と奈緒が歩み出て、星の懐中から誓いの言葉の紙を出して読み上げた。最後に奈緒は感情がない声で
「妻、奈緒」
と言った。その後は集会所で、披露宴が催された。私は星と奈緒が並んで座っている写真を光輝に送った。
(星と奈緒の挙式)
光輝から直ぐに返事が来た。
(やっぱ結婚したのか。取り敢えずおめでとうって伝えて。)
私は、了解。と返事をして奈緒の前に進んだ。盃に入れる日本酒を手に持った。
「星、奈緒、結婚おめでとう。光輝からもおめでとうって伝えてくれって言われたよ。」
星はお酒のせいもあって、真っ赤な顔でデレながら後頭部を掻き
「ありがとう。」
と応えた。奈緒はゆっくりと顔をあげると口角は上がっているので笑顔に見えるが目は感情がない状態で喜んでいる感じを出した。
その違和感しかない表情は気味が悪かった。
披露宴が終わり皆んなが帰宅の途に着いた。
私は両親よりも後に集会所を出て一人で歩いていた。村民は全員が着物だったので、独身の私は振袖と言う事もあり歩き難かった。
村で事件が起きた事は無いので、安心して歩いて帰る事が出来る。
手に引き出物を持ちアルコールが入った事もあり上機嫌で鼻歌を歌いながら歩いているといきなり肩を叩かれてビクリとする。
「持ってやるよ。」
私の手から奪う様にに引き出物を取ると和哉は私の横を歩き始めた。
「奈緒、綺麗だったね。星もデレデレで幸せそうで良かった。」
二人の顔を思い浮かべながら私の表情筋は緩んだ。
「柚はもっと綺麗だろうな。楽しみだ。」
真っ直ぐ前を見ながら和哉は嬉しそうに言う。
「結婚式は人生で一番綺麗な時らしいよ。私程度でも輝けるって。」
「お前は綺麗だよ。外見も。心も。」
真剣な表情で私を見詰める和哉に顔は熱くなった。
「じゃぁ和哉はもっとイケメンになるね。奈緒がまた嫉妬しちゃうかも。」
戯けて言うと、和哉は空いている手を私の頬に当てて自分から顔を背けられなくした。
「もう、奈緒はそんな事しない。星だけだから。だから柚も光輝と連絡取らないでくれ。」
いきなり光輝の名前が出て驚いた。
「連絡取るなって。何で?光輝はお兄ちゃんみたいなものだよ。勘繰らないで欲しい。」
はっきり和哉に言うと、和哉はゆっくり首を振った。
「ダメだ。柚は来月には嫁になるんだから。」
酔っているのか。和哉が何を言っているのか理解する迄時間が掛かった。
「私、結婚予定ないよ?」
やっと捻り出した言葉だった。
和哉は口角を上げて悪戯っ子の様な表情を浮かべた。
「次期に解るさ。」
私達はそれ以上結婚の話を避けて帰路へと歩み進めた。
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