第3話 好きな人
帰宅してから激しく鼓動する心臓を抑えながら顔を真っ赤に染めた。
そうか。奈緒は和哉が好きだったのか。和哉は確かに神秘的な美形で多分、都内だったらモデルにもアイドルにもなれると思う。
奈緒は良く
「イケメンが良い!」
と言っていた。そう言う事だったのか。頭の中を少しずつ整理していった。
朝食を食べ終えて1人暮らしの時の荷物の開梱を始めた。
夕方頃に天気雨が降った。窓を開けて外を見ると虹が出ていた。
私はスマホで撮影してSNSに投稿した。暫くすると、真田光輝がいいねを押してコメントをくれた。
(懐かしい空)
(でしょ。天気雨だよ。)
と返信をすると
(狐の嫁入りだな)
と返して来た。私は返信に困っていいねを押してコメントはしなかった。
困惑していると扉が開いて入って来たのは和哉だった。
父か母だと思って居たのでビックリして声をあげた。
「お前、酷いな。」
「勝手に入って来る和哉が悪いでしょ!」
と返した。和哉はゆっくり近づいて来て私の頬に手を当てた。
「お帰り。」
「た、ただいま?」
語尾が疑問符になった。和哉は、クスクスと笑いながら
「なにそれ。」
と言った。
「だ、だ、だって、此処は私の家だし!」
「バカ、村に帰って来たからお帰りって言ったんだよ。」
私は火照る頬を見つからない様に顔を背けたが頬に当てられた和哉の手が元の位置へと戻した。
「ば、ば、ば、バカはないでしょ!」
「バカだよ。ずっと待っていた俺の事考えないんだから。」
顔に身体の全熱が全集中した様な熱さを感じた。
「やっとだ。ずっと、ずっと待っていた。」
顔の熱さで頭が正常に働かない私は気が付くと和哉と唇を重ねていた。
現状を把握すると顔の熱がサーっと引いていった。そして奈緒を思い出して和哉を突き飛ばした。
「なっ。何するのよ!奈緒が居るのに!」
和哉は蕩ける様な顔から怪訝な顔へと変化させた。
「やっぱ、朝の話しを聞いていたのか。俺は奈緒とは何でもないし、奈緒は来年結婚予定だ。」
そう言えば母がそんな事を言っていた。成程、相手は和哉だったのか。
「結婚おめでとう。」
私は手を叩きながら祝福した。和哉の顔は怒りの顔へと変わった。
「結婚はするけど、奈緒じゃないからな。」
「えっ?」
私は一生懸命に考えた。奈緒じゃない?どう言う事?
「朝、聞いていたなら分かるだろう。奈緒は俺を好きみたいだが、俺は好きじゃないし、結婚相手じゃない!奈緒の結婚相手は田原星だ!」
二人のキスの話しで興奮して話しの前後をすっかり忘れていた。
そう言えば和哉は突き飛ばした。と言っていたかも。
じゃぁ和哉の結婚相手って…誰?
私はポンコツの頭で考えた。
神学校で知り合った人?でも…神主って男性だよね?ただ今は多様性の時代だから女性の神主が居ても可笑しくないのかな?でも巫女さんは女性であれ?男性の巫女さんも居る?いや都内の神社には居たなぁ。と言う事は女性の神主さんも居るかも知れない?じゃあ神学校の友人で恋仲になり、村にやって来る!
間違いないよね!
考えた結果神学校で知り合った友人と和哉は結婚する。
と結論になって満足気な顔になっていたと思う。
「違うからな。」
和哉は呆れた顔で私を見ていた。私は考えを読まれた気がして驚いた。
「何を考えているか解ったの?」
「どうせ、俺の結婚相手は神学校で知り合った女性だとでも考えたんだろう。」
「凄い…。正解。」
私は驚きの表情を隠せなかった。
ここ迄解る事ってある?
無いよね。和哉ってエスパー?
「エスパーでは無いが、柚の考えは手に取る様に解る。」
和哉が私を見る目が真剣で、何か薄ら恐ろしい気がして身体が震えた。
「柚、俺が怖いのか?」
和哉は私の頭をゆっくりと撫でながら髪を伝い頬に手を添えた。
私の目をじっと見詰める。
その目から何を考えているのかを探したが見つける事が出来なかった。
「俺との約束、忘れてないよな?」
和哉の心を探っている時に振られた約束の言葉に固まった。
(約束?)
いつの話しだろうか?
「忘れているのか。薄情者だな。」
和哉の表情は悲しそうでいて、辛そうだった。
そんな表情をさせる程にたいせな約束だったのだろう事は理解出来た。
「えっと。ごめん…どれだか…解らないや。」
忘れている約束が解らずに誤魔化した。そんな私の心を思い遣る様に
「今は許しやるよ。ただ、拒む事だけは許さない。」
和哉の強い意志を感じ取った。私は拒絶はせずに頷いて、
「解ったよ。」
と応えた。和哉は、うん。と返事して私の頬を撫でてから帰った。
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