狐の嫁様

朝霞

第1話 稲荷の村

私が住む村は山間部にあって、小さな集落で、偶にスローライフに憧れを抱く人々が移住して来て最近では幼い頃よりも住み易くなって来た。


移住者達は知らないけど、この村の掟は村長の気持ちで変わる。


何故移住者達が知らないかと言うと、移住者達は村の者では無いから。スローライフに憧れを抱いてやって来ても何時また飽きて出て行くか解らない。


知られた時に外でこの村の事を語られる訳にはいかない。


村人はこの古き習性を守らなけばいけない。


この村の中心部に大きな社がある。真っ赤な鳥居が33基連なっている。社に祀ってあるのは御狐様。所謂稲荷神社である。


社が大きいのは村長の屋敷も兼ねているから。

神社の神主は村長達が兼ねている。


現村長は数年前から体調を崩して今は息子で私の幼馴染で同級生でもある稲葉和哉が代理神主を努めている。


神主になる為に神学校へ高校から進みエスカレーター式に大学も出て昨年神主の資格を得て帰村した。


私は、山向こうにある全寮制高校へ進み大学は都内へ行き父母の期待通りに小中学校の教師になった。1年現場体験で就職をして今回帰村した。


村の学校の教師になる為に。村の子供達は、村長と大人達によって進学を決められてしまう。


幼い頃にやんちゃが過ぎる子供は、進学を決めて貰えない。それは、


村には必要ないから出て行け。


と言う暗黙の掟があるから。

だから子供達と離れたたくない親は必死に厳しく躾けをする。


それでも偶にそう言う子供は出て来る。自由を求めてしまうから。


私達の歳には5人の子供が居た。


次期村長の稲葉和哉、私成田柚月、一つ歳上の安西奈緒、奈緒と同級生の田原星、そして私達より2つ歳上の真田光輝。


真田光輝は、頭が良かった。地頭が良い。と言う言葉は彼の為にあると言える位に素晴らしかった。

都会であれば数学者や研究者になれる程で数学は教科書には載っていない独自の解析方法を編み出す。

では運動がダメかと言うとそうでは無い。村の中では一番の脚力を持ち、ハイジャンプの姿は見惚れてしまう位に綺麗な飛び方をする。


苦手なモノ等ない。


と全身で示す程だった。しかし頭が良過ぎて村の在り方に対して良く大きな声で反意を叫んでいた。


男尊女卑を辞めろ!

村をもっと開放しろ!

自分の事は自分で決めさせろ!


当たり前に聞こえるけど当たり前では無いこの村ではその意見は異質なモノだった。


結果、真田光輝は高校から村を出て帰村はしなかった。

私は大学時代に何度か真田光輝と会った。頭が良かった彼は奨学金で大学院迄進み、今は数学者となり、時間がある時に研究もしているらしい。ただ研究に関しては何の研究かは教えて貰えなかった。


安西奈緒は高校は私と同じ高校へ進んだが成績が悪かったので、卒業後は直ぐに帰村となった。

奈緒の卒業式でお祝いを言いに行ったら物凄い形相で睨まれた。


大学時代に真田光輝にその話をしたら


「アイツも不憫な奴だから許してやって。」


と憐憫の表情で言われた。

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