第9話 遅れてきた高校デビュー
私はぼさぼさの髪を一筋なでた。
ひかるほど長くはないものの、卒業式前に切って以来、美容院には行っていないので肩のあたりまで伸びている。
髪の毛をまともに乾かさずに寝ることもあるため、そのへんの女子高生と比べると髪の毛は痛んでいるだろう。
「……とりあえず髪からいこ。シャンプーしたら洗い流さないトリートメントつけて、髪の毛しっかり乾かして。朝起きたら髪の毛といて、寝ぐせついてたら直して。ドライヤーでセットするとか、アイロン使うとか、そこまでは求めへんから」
「ひかちゃん、洗い流さないトリートメントも、寝ぐせ直しも、家にないんやけど」
「そこからか!」
ひかるからしたら、ありえないことだろう。
「まあでも、あたしは嬉しいわ。もりーがおしゃれに興味もってくれて」
「はは」
「今チャリ通やっけ?」
またずきりとする。
待宵東では、自転車通学の生徒は片足ではなく安定性の高い両足スタンドのついた自転車を利用することが求められている。自転車通学生が多数を占めているものの、校内の駐輪場が狭いため、片足スタンドの自転車は両足スタンドよりも空間を多くとってしまう。それによりあぶれる自転車をなくすための措置だそうだ。
わざわざ新調した自転車は、今では塾に行く以外では使っていない。
「……うん」
ギリギリのところで返事をする。
ひかるは不審に思った様子はなかった。
「あー、じゃあ朝寝ぐせ整えても学校着くときちょっと崩れるかもなあ。簡単なヘアセットとか、ヘアアレンジとか、ついでに考えてもええかも」
「そっかあ」
「今度家行っていい?都合はもりーに合わせるから。あたしが今まで買って、合わへんかったやつでよければいろいろ持っていくから、試してみーひん?」
「ほんまに!?助かる―!」
私たちは予定を調整し、再会を約束して通話を終えた。
しんとした部屋が、楽しかった時間がもう終わったのだと実感させられる。
それでも、楽しみが増えた。
きっと、これも新しい一歩に違いなかった。
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