ひとりで生きる冒険者のはずが……盛りだくさんのスキルとすごい家族に囲まれています!
コウ
第1話 孤児院の生活とは。
気がついた時には孤児院で生活していた。
どうやら、どこの誰かわからない男がニ歳くらいだろうと連れて来たらしい。
それからは、毎日が戦争だった。
食事も足りないので、奪い合いになるのは当然の話で、着るものも同じ。
五歳になれば、近くの民家での薪集めなどを引き受けて、孤児院に金を入れる。
読み書きさえできないので八歳で街の清掃中にみつけた絵本で学んだ。といっても読み方はわからない。孤児院の大人たちの話しを聞きながらどうすれば学べるかと考える日々。
幸いにも、計算はすぐに覚えた。なぜなら、毎日の駄賃を受け取るときに、五歳の時から小銭を受け取っていたからだ。街の人たちは優しくて、鉄貨を渡してくれるときに、「これは鉄貨っていうんだよ。これ一枚じゃ何も買えないんだ」と教えてくれた。
鉄貨は十枚で小銅貨一枚、小銅十枚で銅貨一枚になることを教えてくれた。
薪集めは、小枝の薪が十本で鉄貨五枚だった。それを沢山集めて持ち帰り、数えてもらって受け取るのは、鉄貨十五枚くらいだった。つまり小銅貨一枚と鉄貨五枚。
街の清掃では朝からお昼までで、小銅貨二枚。午後からは小銅貨三枚だ。一日は働いて小銅貨五枚の稼ぎだった。
今の雇い主は、毎日よくしてくれるので試しに聞いてみた。文字を書きたいと。
それなら、とそのおばさんは、古い読み書きの手本をくれた。
「これで覚えるといいよ。あ、でも孤児院でみることはできないね。じゃあ、毎日仕事に来てくれるときに教えてあげるからね」
そう言ってくれた。
うれしくて嬉しくて。大きく頭を下げて孤児院に戻った。「内緒だよ」といってくれたので、ありがたいと思った。
それから二年半。
十一歳になる前に、基本的な読み書きの勉強を終えた。時間がなくなったから中止になったのだ。
そろそろ仕事を変える時期にきていた。
身体が大きくなれば、肉体労働に回される。碌なものも食えないのに、理不尽な話しだと思う。だが、身体を鍛えるためだと割り切って、毎日の労働に励んだ。
当然、給金も上がる。
みな、ブツブツ言いながら仕事をしていた。街のゴミを集めたり、荷運びの仕事だったから、楽でもないし汚れる。昼飯付きだったのが一番の役得だと頑張った。
でも、そんな姿を見てくれている大人はいた。
毎日頑張る姿を見てくれていた雇い主の家族は、様々気を使ってくれた。
正直に感謝の気持ちを表し、毎日働いた。
ある日、どうしてそんなに頑張れるのかと聞かれて、正直に答える。
普通にご飯も食べたいし、服も着たい。毎日身体も拭きたいから、冒険者になって稼ぎたいと。だから身体も鍛えられるし、仕事もいろいろさせてもらえるので、毎日が嬉しいと、心の中をさらけ出した。
すると、雇い主は、よくやってくれてありがたいといってくれた。
それなら、冒険者になるのにも金が多少かかるんだと、毎日の日雇い給金とは別に小さな包みをくれるようになった。そこには毎日小銅貨五枚あった。
これに入れるといい、と紐が付いた革袋をくれた。首から下げられるし、腰につけて、革袋をポケットに入れてもいいから、と。
毎日の給金は孤児院に渡せばいい。これは毎日お前の革袋に入れろと言ってくれた。
お前の仕事は丁寧で間違いないからと、毎日来てくれるように頼んでくれるらしい。
ここの仕事はキツいので、皆は行きたがらない。ただ、飯を腹一杯食わせてくれるから、行くだけだ。そんな奴らの食う量は知れている。
だが、俺は違った。
唯一の食事といっていい、その食事を腹一杯食った。そして、全力で働いた。
冒険者になるから、精一杯食って仕事をすれば筋肉が付く。だから頑張って食って働けと言ってくれていた。
そして、毎日の小銅貨五枚も続いた。
信頼できる人たちだと、その家族をみて思った。
俺は、孤児院では孤立していた。というか、孤立したかった。他の子供たちも沢山いたが、そこの大人たちが大嫌いだった。
畑仕事ひとつしない大人たち。毎日子供を送り出して、赤子の世話をしながら楽しそうだった。それでも夜にはいなくなる。その赤子たちの面倒は孤児院の子供たちが世話をする。これが大人の世界かと幻滅していた。
その歳になって、夜の小さい子たちの面倒をみるのは五人の十歳以上の子供たちだ。だが、小さい子たちは、幸いにも荒波にもまれているからか、元気でいてくれた。
そんなこんなで、三年間、そこで働かせてもらった。当然、毎日の小銅貨五枚はかわらず続けてもらった。
それどころか、途中からは銅貨一枚にしてくれた。そしてある程度たまれば、大きなお金に替えてもらった。そうでないとジャラジャラ音がすればバレるからだ。
そして、昼飯を毎日腹一杯食わせてもらい、帰りにはパンを一個もらって隠れて食べてから孤児院に戻った。ありがたい雇い主の気遣いだ。
そのおかげで、身体も大きくなり、十四歳が近くなったときには、大人と同じ荷運びができるようになっていた。
十四歳になれば孤児院を出ることになる。その日から住むところもなくなるのだ。
宿に泊まるとひと晩で小銀貨数枚は取られる。それが現在の問題だ。
それでも仕事は待ってくれない。
どうやらギルドで斡旋してくれる、新人のための安宿があるらしい。
その上、登録した日から働ける仕事もある。
皆が嫌う、荷運びやゴミ掃除だ。当然、それもこなさないとランクアップできない。俗に言う「街の仕事」だ。みんなそうやって頑張っているときいた。
ある日、冒険者ギルドに荷物を運ぶ仕事があった。
かなり重い荷物だったが、荷車に乗せていけるので楽な方だ。
幸い、今は夕方の仕事終わりに雇い主と息子に剣の指導をしてもらっている。雇い主は元冒険者らしい。息子は現役の冒険者だ。Bランクだと聞いて尊敬の眼差しを向ける。
普通の子供より身体も大きく、力の強い俺だが、雇い主親子にはかなわない。それでも、訓練を始めて半年が過ぎた今、そのままでも、EランクからDランクだといってもらった。剣さばきは、それほどではないが、短剣の扱いは、日々の荷ほどきや荷造りで鍛えられているので、そのへんのCランクでもかなわないといってもらった。
今、冒険者ギルドに荷車を引き荷物を運んでいる。
雇い主は、子供二人でも大変な荷物を、俺なら一人で荷車を引くので、お得らしい。そういうことも話してくれる人たちだ。
そんな俺は、笑顔で重い荷車を引いている。
距離もかなりあるので、仕事としては辛い仕事だろうが、これが自分の力になるんだと、荷車を引く。
そんな俺を見る街の人たちは、不思議そうな、怪訝な目つきで俺を見ている。
どんな風にでもみてくれ、と荷車を引いていた。
およそ、30分ほど重い荷車を引いていれば、冒険者ギルドの看板が見えてきた。
荷車が入れる入り口はひとつしかないと聞いていたので、広い入り口を見る。
「すみません。荷物を持ってきたんですが、ここでいいですか?」
中で掃除をしていた男に聞いてみた。
どれ、と伝票を見せろと言われて確認してもらった。
「ここでいいぞ。その奥のカウンターに置いてくれ」
はい、と荷車ごと入っていいと聞いて、重い荷車を引く。
すると、奥からゴツいおじさんが出て来た。
「お前ひとりで来たのか?」
「はい」
「重かっただろうよ」
「重かったけど、これも鍛錬だと思ってます」
ほう、とおじさんは腕を組んで俺を見下ろす。
歳は、と聞かれて、もうすぐ十四歳だといえば、うむ。とじっと見られた。
「ここに置けばいいですか?」
ああ、と聞こえたので、ひとつ荷物を抱えて台の上に置く。
次々と六個の荷物を下ろして、サインをもらった。
「お前、あの孤児院の子か?」
「はい。そうです。そろそろ出ないとならないんです」
「そんな時期だな。出た後はどうするんだ?」
「冒険者になりたいです。そのために、身体を鍛えられる荷運びを数年してました」
「そうか。それはいいことだ。それなら、登録に来いよ。俺は解体場長のモリスだ。なりたて冒険者にもいろいろ仕事があるからな。荷運びもあるぞ。それをやらないとランクアップはない。ゴミ掃除もあるが、大丈夫か?」
「はい。いろいろ経験してきました。でも、初心者の安宿は空きがありますか?」
「今はあまり使うやつはいないから、あると思うぞ。確認しておいてやる。お前の名前は?」
「ありがとうございます。俺はルノです。よろしくお願いします」
「おう、任せとけ。皆俺を場長と呼ぶ。お前の狩ってきた魔物を解体するの、楽しみにしてるからな」
「はい! ありがとうございます。では、俺、戻ります」
「おう、伝票なくすなよ」
はい! と胸のポケットに入れて荷馬車を操りギルドを出た。
伝票をなくさないように、いつもの革袋に入れて首から下げた俺は、早足で荷車を引く。
帰りは軽いので、自然と脚がすすんでいく。
その時、冒険者ギルドで、モリス場長とギルマスが自分のことを話しているなど知らずに意気揚々と戻るのだった。
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