第34話 真宮さん好みの――
知らず知らずの内に加恋に悪影響を与えていたのに無自覚で、きっと、ただ僕一人が気持ち良くなっていただけ。
そんな僕だから、加恋の僕へと向ける感情が、僕の物と同じだって勘違いしてしまったんだ。
これは改めなくちゃいけない。
そうしなくちゃ僕はまた、同じことをやらかしてしまうだろう……だから。
「お願い、真宮さん。もしも僕と一緒にいて、少しでも嫌な思いをしたら遠慮無く言ってほしい。最初は迷惑を掛けるかもしれないけれど、でも……ちゃんと改めるから!」
僕は恥を忍んで、思いきり真宮さんに頭を下げた。
具体的に自分の何が間違えているのか、すぐに浮かばない程度には分かっていない。
そんな状態でさらに迷惑を掛けようなんて厚かましいって自覚してる。
でも、だから真宮さんから離れようなんていうのは違うだろう。
少なくとも真宮さんはそんなこと望んでない。
分かってるなんて、偉そうなことはとても言えないけれど……ただ、そうであってほしいと、僕が勝手に期待して、信じているんだ。
僕が、彼女と一緒にいたいから。
「…………本気で言ってる?」
そんな僕の頼みに真宮さんは……なぜか呆れるように肩を竦めた。
確かに真宮さんにとっては面倒極まりないお願いだろうけど……。
「嫌な思いをしたら遠慮無く言ってほしい――それじゃあ私、何も言えないけれど?」
「え? い、いや、もしも傷つけないようにとか、そういう気を遣ってくれてるんだったら、僕のことは心配しなくていいし……」
「そういう気は、とっくに遣っていないから」
つまらなそうに、当たり前みたいに彼女は言う。
「私……この数日で、自分が意外と短気だって気がついたの。気になることがあったら我慢できない。嫌なことがあったらすぐに口に出しちゃう。我慢できてると思っていたけれど、多分顔に出てたのね。元々そういう性格で、だから婚約者として可愛げが無いなんて思われていたのかも……なんて少し反省もしたわ」
自嘲するような言葉だけれど、その顔には反省なんて全く浮かんでいない。
事実は事実として受けいれているという感じだ。
ただ、短気なんて、そんな風には思わなかったけどな……それこそ、僕の気になる行動っていうのを、彼女は全然指摘してこなかった。
さっき挙げたラーメン屋のことだって。
「嫌な思いなんて、していないから」
「え?」
「動揺はさせられた。でも、嫌だったわけじゃない。だから、嫌なときに嫌だと指摘するのは難しい。嘘を吐くことになるもの」
「い、いや、だって――」
「距離感がバグってるなんて言ったけれど、それを嫌味も下心も無く、無意識にできるのは美徳でもあると思うわよ。女の子に優しいなんて、紳士的じゃない。ただ、相手によっては悪影響を与えてしまう。尽くされるのが当たり前だと思ってどんどん要求を高くする人もいれば、無意識とは思わず、無いはずの下心を感じ取って嫌いになる人もいる……まぁ、後者に関しては貴方の方から感じ取って改める気もするけれど」
問題は前者――加恋がこれに当たる、ってことだろうか。
僕が加恋を無意識に甘やかしてしまったから……いや、多分それだけじゃない。
加恋の気を引きたい。もっと自分を必要としてほしい。そんな下心が、余計にそんな無意識を助長してしまっていたんだと思う。
「だから、私が矯正してあげる。私好みの男に」
すっと、人差し指を僕の鼻先に突きつけながら、真宮さんは笑――いや、頬を引きつらせる。
「ちょっと無理してない? 私好みなんて、真宮さんらしくない言葉選びな気がする」
「ぐ……ハッキリ指摘するの禁止」
「えと、バグってた?」
「デリカシーの問題。人が必死に自分を鼓舞して、大げさに見せようとしているのに、わざわざその皮を剥がそうなんて、弱い者いじめに等しい残酷な行為だと思わない?」
「そ、そんなつもりは……いや、悪かったよ、ごめん」
早速やってしまった。
でも、ほんのちょっと、からかう気持ちがあったのは否めない。
そう反省しつつ深々と頭を下げる僕のつむじに、呆れるように、けれど少し笑いの混ざった溜め息が掠った。
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