第9話 放課後プロデュース

 そして放課後。


「お待たせ、真宮さん……」

「いえ、全然――って、大丈夫? 心なしか顔色が悪く感じるけれど」

「あ、ああ……まぁ、気にしないで」


 学校から少し離れたコンビニの前で落ち合う。


 真宮さんは相変わらず姿勢よく立っていて……僕を見るなり、怪訝そうに顔をしかめた。


「もしかして……彼女と何かあった?」

「いやっ、真宮さんが想像するようなことは何も!」


 顔色が悪いというなら、その原因は今回ばかりは加恋じゃない。


 その理由は……結局、今の今まで、いいデートコースが浮かばなかったことが原因だ。


 ちゃんと考えた。授業中だって必死に考えたんだ!

 でも思い浮かぶのは大体、加恋が思い浮かんでしまうところばかりで……仕方が無い。


 僕がそういうのを考えるのは、これまでずっと加恋の為だったから。

 そこに真宮さんを連れて行くのは抵抗があるし、僕も嫌だ。


 そうなると僕の引き出しには、加恋と一緒に行ったことがない(または行くつもりがなかった)場所しか残っていない。

 でもそれは、やっぱり女の子を連れて行くにはどうかという問題があって……。


「なに? もしかしていやらしいこと考えてるんじゃないでしょうね?」

「はぁ!?」

「ダメよ。いくら疑似恋愛をしてみるっていう話でも、そういうことをするつもりは無いもの」


 牽制するような、所謂「ジト目」でこちらをむすーっと見てくる真宮さん。


 ちょっと幼い仕草に一瞬気を取られそうになるけれど、すぐさま首を横に振って否定する。


「わ、分かってるよそんなこと! ていうか、そもそも考えてないから!」


 まさかそんな方向で疑われるなんて!

 そりゃあ真宮さんは美人だ。憧れている男子も多いだろうけど……。


「それじゃあ何を考えていたのか、言えるわよね?」

「う……」

「言えないってことは……」


 さらに目つきが鋭くなる。

 さっきは幼い仕草なんて思ったけれど、今はもう鋭い殺気ばかり感じて、反射的に背筋が伸びた。


「わ、分かった。言う。言います……!」


 仲良くなった理由が理由だ。

 僕にそんな下心を抱く余裕が無いことは他でもない真宮さんが一番知っているはず。


 だから彼女は僕の悩みを引き出すために、あえてこんな揺さぶりを掛けてきたんだ……と、思う。

 そう思っていても普通に怖いし、心臓にはめちゃくちゃ悪いけれど。


 そうして、作戦通り僕から洗いざらい聞き出した真宮さんは、神妙な顔つきで頷いた。


「……なるほど。完全に盲点だったわね。私はあの男と遊びに行ったりとかはあまり無かったから」

「そ、そうなんだ」


 あの男……冷たい呼び方になっているのは一旦気にしないことにしつつ。


 婚約者という関係に僕は詳しくないけれど、それはそれで、じゃあ普段どんなことをしていたのか気になってくる。

 もちろん、今は聞かないけれど。


「別に深く考えないでいいのよ。どこでもいいから……ああ、もちろんいかがわしいところ以外で」

「釘刺さなくていいからっ」

「どこでもなんて言って、言質を取ったと思われてもつまらないじゃない? どこか無いの? 鷲崎さんと行っていない、行こうと考えたことも無いような場所って」

「行こうと考えたことも無いかぁ…………ぱっと浮かんだのはラーメン屋とかかなぁ」

「……ラーメン?」

「僕、人並みにラーメンが好きでたまに食べに行くんだけど、加恋はあまり興味なくて」

「……そうね。どことなく身体に悪そうで太りそうなイメージがあるものね」

「物によると思うけどね」


 でも、真宮さんがラーメンを食べている姿が想像できないのも確かだ。

 やっぱりデートでラーメンは厳しいか――。


「ラーメン……」

「真宮さん?」


 真宮さんはボーッとした様子で歩き始める。


 足取りはしっかりしているけれど、何か考え事をしているような感じで……。


「どうしたの? まだ行き先決められてないけど――」

「黄金色のスープ、弾力のある麺……」

「逆にどういうところ行きたいとかある? 何かヒントがあれば――」

「肉汁たっぷりのチャーシュー、締めのラーメンライス……」

「……もしかして、真宮さんってラーメン好き?」

「食べたことなんか無いわ。ただ知識として知っているだけ」


 ら、ラーメンに関する質問にははっきり応えてくれる……!

 良く見ると口の端からほんのり涎が垂れてるような――あっ、拭った。


「…………食べたこと無いなら、行ってみる?」

「行くっ!」

「返事早っ!?」


 また真宮さんの新しい一面を見つけた気がした。

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