第46話 終戦

 お茶会を終えると、国王陛下の部屋にマクシモムを連れて行きました。


 興味津々の妖精達が集まってきていますが、その姿が見えるのは、わたしとアクセレラシオン様と国王陛下だけだ。


 事前に国王陛下の部屋には、コスモス医師が呼ばれておりました。


「お久しぶりです、コスモス先生」


「元気だったか?マクシモム」


「元気でした。無茶な作戦を考えついた父上を止めることができずに、後継者の資格も剥奪され、自分の居場所を完全になくしました。その父も死にました。シャルマンが治療を施しましたが、既に手遅れの状態でした。父上を亡くしましたが、やっと自由な身になれました。これからは、誰にも縛られることもなく、自分の歩きたい道を歩いて行きたいと思っています」


「そうか、それがいい」


 マクシモムとコスモス医師は、どうやら顔見知りのようで、ご挨拶をなさっておりました。


 話しを聞いていると、コスモス医師はマクシモムの恩師のようです。


「居場所がないのなら、どうかマクシモムをこの国にいさせてやってください。この子の医術の腕はなかなか確か。私の教え子なんです。優秀な生徒でした。私が国から逃げ出すときに、手助けをしてくれた恩人でもあります。ヘルティアーマ王国に戻れば、きっと居場所はないと思われます。若い世代に変わるとしても、これまでの慣習が直ぐに変わるとは思えません。尊い命を狙われる可能性もあります」


 コスモス医師の言葉に、国王陛下は、直ぐに滞在を認めた。


 アクセレラシオン様が認めているので、反対はされないと思っていたけれど、どうやら居場所はできたようだ。


「マクシモムは私が責任を持って、この国の事もいろんな習わしなども教えて参ります」


「では、マクシモムの事はコスモス医師に一任しよう」


「国王陛下、感謝致します」


 マクシモムは、コスモス医師が世話をすると言われて、コスモス医師の離れに住むことになりました。


「国王陛下、アクセレラシオン王太子、それでは、これにて失礼致します」


 コスモス医師はマクシモムを連れて、国王陛下のお部屋から出て行った。


 よかったと思った。


 マクシモムは、コスモス医師がテスティス王国にいることを知っていたようでした。


 おとなしく、物静かな性格のマクシモムには、国王陛下になるより医師になる方が似合っているような気がします。


 テスティス王国に医師が二人になれば、救える命も増えてきます。


 国にとってもいいことずくめです。


「ヘンデル王国の国王陛下が、大層、感謝しておった。アクセレラシオンとミルメルに、改めてお礼を言いたいと言っておった。国民は誰一人、傷を負った者はいなかったという。多少、ダンスホールを壊してしまったが、被害はその部屋だけだ。私からも感謝したい。友人の国を助けてくれて感謝しておる」


 わたしは、お辞儀をした。


 国王陛下に褒められて、嬉しかった。


 自分の魔法が役に立った事が嬉しかった。


「ちょっとと言うより、完全に壊したと思うが、確かに、あの部屋だけで被害が出なかったことは、我々の作戦勝ちであろう」


 アクセレラシオン様は、わたしの嬉しそうな顔を見て、アクセレラシオン様も微笑んでいる。


 何よりテスティス王国に被害が出なかった事が嬉しいことです。


「地下神殿に避難していた者達も、今夜は我が家のベッドで休めるだろう」


「貴族以外の術者達は、思う存分暴れることができて楽しんでいた。この国の宝だと思った。貴族、刑務官、上級刑務官だけでは、この戦いを乗り切る事は難しかったと思う。この先も、この力を失わせないために、定期的に刑務官の訓練場を開放して、術者が練習できる場所を提供して行くべきだと思う。次の会議で提案してほしい」


「ああ、それは私も思った。我が国の術者は素晴らしい。この国力を失ってはならない。これからも継続させるべきであろう。もう二度と、戦争など起きないのが一番なのだが、自衛は大切だ」


 我が国の術者は多少怪我人は出たが、皆、軽傷で数も少ない。


 傷つき、亡くなった者まで、ヘルティアーマ王国までダークホールで送り、我が国には亡骸一つ残ってはいない。


 お父様もお母様もお兄様も、きっと無事に国に戻って行かれたでしょう。


 わたしは二度と、ヘルティアーマ王国には参りません。


 双子のアルテアお姉様は、酷い怪我をなさったけれど、あの頑固者のことなので、きっと後悔などしていないでしょう。


 きっと王妃になれなくなった方が、ショックを受けているかもしれません。


 生きてはいると思うので、これから長い年月の間に、会いたくなるかもしれません。


 そんな気持ちになった時に、会いに行けばいい。


「アクセレラシオン、ミルメル、疲れたであろう。また粗食であろうが、シェフ達が食事の支度を始めたと思う。食事をしたら、早めに休みなさい」


「では、そう致します」


「ああ、忘れておった。国民にまだお披露目ができていないが、この戦いでアクセレラシオンが妻を娶った事は知れわたった。早めに正式なお披露目の式典を行おう」


「そうですね。ミルメルも大活躍をした。褒美も与えてやってください」


「そんな、ご褒美などはいりません」


「欲のない妻だ」


 アクセレラシオン様は、わたしの腕を引っ張り、すっぽりと背後から抱きしめてきた。


「ミルメルの褒美については、王妃とも相談しよう」


「お願いします」


「では、早く二人になりたいであろう。部屋に戻ってもいいぞ」


「それでは、失礼します」


「こ」


 そう口にした瞬間、わたし達は二人の寝室に来ていた。


「アクセレラシオン様、わたしは、まだ国王陛下に何も言えていませんわ。待つと言うことをそろそろ覚えてくださいませんか?」


「ああ、そうであったな。まあ、気にするな。父上は気にしてはいない」


「そう言う問題ではありません」


 アクセレラシオン様は、わたしをベッドに押さえつけて、笑っている。


「もう」


 怒っても無駄なのだ。


 アクセレラシオン様のお心が、伝わってきます。


 抱きたい。


 好きだ。


 口づけがしたい。


 ミルメルが欲しい。


 そんな声が聞こえてきます。


 わたしを求めてくれる声を無視することはできません。


 だって、わたしもアクセレラシオン様に触れて欲しい。


 そっと唇が重なりました。


 愛しているという言葉と共に。


 わたしも心の中で、何度も愛していますと答えました。


 食事よりも、まずアクセレラシオン様が欲しいのです。


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