第32話 攻撃に備えて

「父上、大変です」


「どうした?ミルメルが妊娠したか?」


「ミルメルが妊娠したかは分かりませんが、魘されているミルメルの声を辿ったら、リバール王国が、ヘルティアーマ王国に一方的に侵略されておりました。ミルメルを苦しめていたのは、悲鳴と泣き声のようでした」


「それは、本当の事か?」


 父上は、ふざけた顔から、真顔になった。


「だが、ヘルティアーマ王国はずいぶん遠い国だ。リバール王国まで、一年以上かかるのではないか?ミルメルがエリン・マスタード侯爵令息を連れ帰ってから、それほど時間は経っていないが」


「ミルメルの話しでは、土の魔術師が土を動かす魔術を使うと言っておりました。毎日、一国ずつを倒しているとしたら、目指している国は、我がテスティス王国の可能性があります。一週間以内に我が国に到着する可能性があります」


「何故、戦を始めた?」


「元々、ヘルティアーマ王国は軍事国家だったと言っておりました。これは憶測ですが、ミルメルが消えて、妖精の力が同時に消えた可能性があります。ミルメルがいることで、潤っていた大地の恵みが消え去ったとしたら、水は涸れ、作物も枯れ果てている可能性があります。エリンが、我が国の事を話していた可能性はあります。我が国は肥沃の大地と豊富な水があります。それが目的ならば、王族は、真っ先に殺されるでしょう。我が国は闇の属性持ちの国ですが、そのことを知っているかどうかまでは分かりません。国民にも魔力を使う許可を至急出して、敵国が攻めてきた時に、応戦できる者を増やしておくべきです」


「分かった。直ぐに、勅令を出す。刑務官の訓練場を開放して、魔力の練習の許可を出そう」


「よろしくお願いします」


「ミルメルはどうした?」


「強制的に魔力と妖力を混ぜて、俺の力で、定着させました。無茶なやり方をしたので、発熱して、眠っております」


「そうか、よく発見してくれたとお礼を言いたかったが、また後だな」


「今は、やるべき事があります。ミルメルが声を聞き取ってくれたお陰で、不意打ちを食らうことは避けられそうです」


「では、私は、勅令を出しに行ってくる」


「俺は、訓練所に行ってきます。母上と姉上には、安全な地下神殿に移動してもらいましょう」


「ああ、そう伝えておく」


「国民の魔力の使えない者も地下神殿に匿ってもいいでしょうか?」


「いいだろう」


「では、お願いします」


 俺は、刑務官の訓練所に向かった。


 平和な我が国でも、万が一の為に、訓練はしている。防衛できるように、魔術を磨いている。


 普段は俺の護衛をしている側近達が集まってきた。


「この国が狙われている。敵国が来るまでに、およそ一週間以内だ。国民に攻撃魔法の許可を出した。訓練ができるように、訓練所を開放してくれ」


「畏まりました」


 側近の一人が消えた。


「魔術が使えない者は、地下神殿に保護するように」


「畏まりました」


 側近の一人が消えた。


「食料の備蓄を地下神殿に」


「畏まりました」


 側近の一人が、また消えた。


 側近達は、刑務官に指示を出しに行くのだ。


 ダークホールで移動しているので、移動は一瞬だ。


 俺には腕の立つ側近が、十人ほど付いている。


 中には、妖精の姿が見えたり、声が聞こえたりする者もいる。


 俺の周りには、大勢の妖精達がいる。


 ミルメルの周りにも、妖精達が着いている。


 ミルメルの妖力が安定したので、フラウも力を付けるだろう。


『ミルメルはどうだ?』


『ぐっすり眠っています』


 フラウの声が聞こえた。


 会話もできるようになった。


 ミルメルとも早く会話がしたい。


 俺達の未来のために、この戦は、被害が出る前に抑えたい。


 できれば、ミルメルが目を覚ます前に、全て終わらせたい。


 国民達への勅令は、使い魔が行う。


 一瞬で、国中に伝わるだろう。


 オンが、俺の横に並んで歩いている。


『伝わったか』


『国王陛下の使い魔が、勅令を届けた。戦など馬鹿な事を考える』


『ああ、その通りだ。ところで、アイは?』


『ミルメルのベッドの上で転がっていると思うぞ』


『そのベッドは、俺の寝床だが』


『ケチケチするな。今は意識がない。何かあれば、ミルメルを連れて避難する』


『妖精の国に飛んでもいい』


『精霊王がいないのに、ミルメルが悲しむぞ』


『俺は死ぬつもりはない』


 刑務官の訓練所に到着すると、既に一般国民も来ている。


 この国で、ダークホールと使い魔を出すのは、一般常識になっている。


 訓練所に、次々と人が集まってくる。



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