第29話 枯れた国の行く末

 


 どうしても枯れる。


 次々と作物は枯れていく。


 水は、我が家の領地にある湧き水から、チョロチョロとしか出ていない。


 どんなに聖魔法をかけても、水量が以前のように増えることはない。


 きっとこれが、本来の流れなのだろう。


 川近くの田畑だけは、どうにか現状を維持できているが、川から離れた場所までは、水が足りずに枯れていく。


 季節は秋になった。


 本来なら収穫の時期だが、収穫は前年の半分にも満たない。


 この量では、領民全てを養うことはできない。


 収穫を終えた領民が、農産物を治めない。または、収穫した物を持って、姿を消すようになってきた。


 領主の元には、農産物が集まらない。


 領民は、田畑も家も捨てて、収穫した農産物を持って、国を出て行く。


 ヘルティアーマ王国は、終わったと口にする者が増えた。


 わたくしやお父様が、領地を留守にしている間に、領民は姿を消してしまうので、止めようもない。


 我が家の領地だけではなく、他の領地でも同じ事が起きている。


 国民が国を捨てて、他国へと向かっていくのだ。


 それを見つけた貴族が農民と戦い、貴族が殺される事件が起きた。


 沈む国にいるよりは、豊かな国で過ごしたいと、農作物を他国に勝手に売ってしまう例も出てきた。


 今まで様子を見ていた国王陛下は、勅令を出した。


『貴族と名乗る者は全て王宮に集まること。光の魔術師と名乗る者も全て、王宮に集まること。日付は○の月、○日。時間は……』


 貴族と光の魔術師は全て、王宮に集められた。


 普段はダンスを踊る広間に、大勢が集められている。


 国王陛下は、舞台の上に上がると、皆を見回した。


「皆の者」 


 静かだが、低く響く声がホールの中に広がった。


 何が発表されるのだろう?


 まさか、戦争か?


 そんな噂は、ずいぶん前から光の魔術師の間で話が出ていた。


「我が国の水は涸れ、植物も育たない土地になった。何故、そうなったのかは、色々考えてみたが、私にはどうしても分からなかった。ヘルティアーマ王国は、このまま貧困の国に落ちぶれていくのか?それとも新たな土地を求めて、戦争をして手に入れるか悩んだ。そうして、私は決断した。我が国の貴族は魔法が使える。光の魔術師だけではなく、風の魔術師、土の魔術師、火の魔術師、その者の力を借りて、近隣の豊かな国を攻め落とそうと考えた。反対の者はいるか?」


 ホールの中は、シーンと静まっている。


 噂は広がっていたのだ。


 どの属性も、戦うために訓練をしてきた。


 この国は、軍事国家だったのだから。


 豊富な水と食料を売り、貴族は戦いの訓練をしてきた。


 魔術は使うためにあるという国王陛下の指示の元に。


「どの国を攻めるのです?」


 貴族の一人が質問した。


「近くであれば、テスティス王国を攻めたいところだが、テスティス王国までは距離がある。そちらの地方に向かって、一つずつ国を攻め落とす」


 貴族達は、ざわめいた。


 テスティス王国は、捕らえた男が住んでいた国だ。


 男は、テスティス王国は精霊を神に崇めていると言っていたと聞いた。


 国は栄えて、作物もよく育ち、水も豊富にあると男が、口にしていた。


 どのように、男が消えたかは、結局、分からないままであるが、裕福な国ならば、それに越したことはないが……。


 最終目的の国が、テスティス王国ならば、どれほどの国を滅ぼして、どれほどの人々を殺さなければならないか、想像もできない。


 少なくとも、他国から非難は受けるだろう。


 そして、この地を捨てるつもりで、他国を制圧していくのだ。


「我が国の国民は、他国に逃げ出している。もはや、逃げ出した者は、我が国の国民ではない。皆、殺してしまえ」


 なんという非情な言葉であろうか。


 だが、わたくしも、逃げ出した国民は、もはや、我が国の国民ではないと思っている。


 この土地が使えないのなら、使える土地に、移り住んだらいいだけだ。


 わたし達には、魔力がある。


 他の国の民にはない力を持って、生まれてきている。


「残っている領民から、食料を治めるように国王陛下からの勅令を出す。戦争は、二週間後から開始する。先ずは、隣のレアリアを我が国に、その次はソムニウムを堕とす。皆殺しでいい。残る物は食料と水だけでいい。民が田畑の世話をすると言えば、殺さずに残すが、貴族と王族は邪魔だ。数週間後には、テスティス王国を我が国にするつもりだ」


「ヘルティアーマ、ヘルティアーマ、ヘルティアーマ……」


 貴族達が、我が国の名を叫び、拳をあげている。


 傍から見たら異常者の集まりね。


 でも、人に向けて、本気で戦っていいのならば、やってみたいわね。


 わたくしは、楽しくなってきた。


 人に光の聖魔術を浴びせたら、どうなるかしら?


「我が国が、この大地の聖者として、治めようじゃないか」


 国王陛下も目を金色に染めて、高い位置から貴族達を見やる。


 国王陛下もいかれているわね。


 もう、この土地は、どうしても作物も実らないし、水もない。


 飢えた生活などしたこともなかったから、皆が狂っている。


 蛮族の国と言われる日も近いだろう。


 血が滾るわね。


「では、解散」


 国王陛下は極悪人のような笑顔を浮かべている。


 貴族達も楽しそうだ。


 魔力を存分に使えるのだ。


 やはり楽しい。



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