第24話 花の舞い

『それでね、練った魔力をピーンと弾いていくの』


『弾いた魔力は、そのままでいいのよ』


『いっぱい、いっぱい、魔力の塊を浮かせるの』


『そうよ、ナイフなんて恐ろしい物を浮かべるから』


『恐ろしい物じゃなくて、お花がいいわ』


『お花』


『お花がいいわ』


『それがいいわ』


『お花を浮かべて、それを飛ばすのよ』


『魔力をクルクル回すのよ』


『お花だから、回した方が可愛いわ』


『妖精王だって、真っ直ぐ飛ばなかったよね』


『そうよ、最初からできる方が珍しいのよ』


 わたしはベッドの上に座っていた。


 目を覚ましたら、アクセレラシオン様もマローとメリアもいなかった。その代わりに、妖精達が部屋中にいた。


 ベッド上にも、わたしの体の上にもいる。


 たくさんの話し声が聞こえた。


 どうやら、わたしが失敗した初級魔法の方法を教えてくれているようだ。


 ナイフをお花に替えて、浮かしたらいいと教えてくれている。


 確かにお花なら、怪我はしない。


 練習も一人でできそうだ。


 妖精達は、小さな花を浮かべている。


 その花を花吹雪にした。


 とても綺麗だ。


『ミルメルもしてみて』


『うん』


 わたしもお花を作ってみた。


『もっとたくさんは?』


『一個でもいいよ』


『じゃ、二個にしょう』


 もう一つお花を浮かべると、妖精達は大喜びしてくれる。


 それなら、もう一個、浮かべてみよう。


 そうしたら、


『すごい』


『ミルメル、じょうず』


『綺麗なお花よ』


 赤と黄色と青い花を浮かべた。


 アクセレラシオン様の瞳の色は漆黒。


 カラフルの花の中に漆黒の花も浮かべた。


『もっと』


『もっと見せて』


 妖精達に強請られて、緑と紫の花も浮かべた。


『もっと、綺麗な色』


 オレンジとピンクの色も混ぜた。


 たくさんの花が浮かんでいる。


「可愛いね」


『可愛いね』


『かわいい』


『かわいいね』


 8色の花が浮かんでいる。


『舞わせ』


『舞わせ』


 回すんじゃなくて、舞わせるのか?


 舞を舞うように花を踊らせた。


 妖精達が花を浮かべて、わたしの真似をしている。


「綺麗ね」


『綺麗』


『きれい』


『かわいい』


 妖精達が喜んでいる。


 わたしも楽しい。


 もっと花を浮かべて、舞わせる。


 わたしが舞うより、花が舞った方がずっと可愛い。


「うふふ」


『楽しいね』


「楽しいね、うふふ」


 綺麗だし、可愛いし、楽しい。


 花が舞う。


 色鮮やかな花が舞う。


 色鮮やかな中に、漆黒が一つだけだった。


 なんだか、漆黒が一つじゃ、可哀想に思えた。


 まるで、昔のわたしみたいだ。


 もう一つ、漆黒の花を浮かせた。


 わたしとアクセレラシオン様だ。


 ダンスを踊るように、漆黒の花をいろんな花の中で、舞わせる。


 アクセレラシオン様は、もう魔法は使わなくていいと言ったけれど、わたしはこんなに綺麗な魔法なら使いたいし、アクセレラシオン様が危険な時は、お助けしたい。


 みそっかすにも、みそっかすなりの意地があるのだ。


 数えられないほどの花が、舞っている。


 妖精達が、歌っている。


 可愛らしい声で、応援してくれている。


 美しくて、わたしも楽しくて、花をペアーにして、ダンスを踊らせる。


 わたしは、ダンスは上手ではない。


 お兄様が一度だけ踊ってくださった。


 それ以来、誰ともダンスを踊ってはいない。


 練習も、そのダンスを踊るためだけに、少しの間、練習をした。


 舞は、毎年していた。


 無駄な努力だったけれど、花のダンスを、また舞に替えた。


 この方がしっくりくる。


 ベッドがギシッと鳴って、わたしは隣を見た。


「アクセレラシオン様」


「綺麗だな」


「綺麗ですね。舞わせているんです」


「ああ、声は聞こえていた。妖精達が嬉しそうに騒いでいるから、何か楽しいことをしているんだと思って、急いで見に来たんだ」


『妖精王、遅い』


『ミルメルをひとりにするな』


『妖精王の甲斐性なし』


「はぁ?」


 アクセレラシオン様は、妖精を指先で弾いた。


「駄目ですよ。可哀想ですよ。指で弾いたら、きっと痛いと思うの」


「そうか」


「そうですよ」


「ミルメル、いつの間に色を付けられるようになったんだ?」


「お花は、綺麗な色をしていますよ」


「そうだったな」


「こんなに器用に花を舞わせる事ができるなら、やはり俺の教え方が悪かったのだな?」


「ナイフは怖いですけれど、お花は綺麗ですよ」


「ああ、そうだな」


「これならドッペルゲンガーも色つきでできそうだ?」


「それとこれは違うわ。お花は可愛いもの」


「ミルメルも可愛いよ」


「もう」


 わたしは花たちをアクセレラシオン様にぶつけていく。


「アハハ、攻撃もできるじゃないか?」


「罰ですよ。からかったりして」


「そうか、罰か」


 アクセレラシオン様は花で埋まってしまった。


「ミルメル、多過ぎだ」


「そうですね」


 消えろと願ったら、花は綺麗に消えた。


 妖精達が、『もっと、遊ぼう』と騒いでいる。


「少し、休憩だ。朝食を食べに行くか?」


「はい、お腹が空きました」


「それなら、着替えておいで。侍女を呼ぼうか?」


「侍女ですか?メイドなら知っていますが、他に雇ったんですか?」


「ああ、すまない。マローとメリアは、ミルメルの侍女に命じてある。まだ眠っていたから、ゆっくり眠らせてくれと頼んだのだ」


「まあ、わたしに、侍女ですか。メイドでも勿体ないのに。侍女を付けていただけるなんて、お姫様のようよ」


「ミルメルは、俺のお姫様だよ」


「もう、口が上手いんだから」


 わたしは、ベッドから降りた。


「着替えてきます」


「では、ここで待っていてもいいのか?」


「はい、急ぎますね」


 わたしは洗顔をしてから、クロークルームに入った。


 クロークルームにはドレッサーもいろんな物が置かれている。


 自分で着替えて、髪を梳かす。


 脱いだ物は脱衣籠に入れておく。


「お待たせしました」


 わたしの姿を見たアクセレラシオン様は、わたしを抱きしめた。


「どうして、赤いドレスにしたのだ?」


「別に何でもないわ」


「危険な事はするなよ?」


「アクセレラシオン様は、わたしの心の中を覗きすぎよ」


「そうかもしれないな」


 赤いドレスは血の色。


 怪我をして、血が出ても拭える色。


「今日も練習してくださいね」


「今日もするのか?」


「魔法を覚えたいの」


「ああ、いいだろう」


「それから、暴走を止めるお言葉も教えてください」


「それは、秘密なんだ」


「夫婦になるのに、秘密なんですか?」


「極秘事項なんだ」


 アクセレラシオン様は、本当に困ったとお顔に描かれたお顔をされていた。


「いつか、教えてくださいね」


「ああ、いつかな」


「ありがとうございます」


 今ではなく、未来でも、約束してくれるのなら、わたしはアクセレラシオン様を信じられる。


 秘密にする理由があるから、秘密にするのだ。


 理由があるなら、聞き出したらいけない。


「ミルメルは良い子だ。早く結婚をしたい」


「もうすぐですよね?」


「ああ、ドレスができたら結婚しよう」


 わたしは嬉しくて微笑んだ。


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