第23話 水不足
タン村の水不足と水田と畑は、壊滅的に悪化している。
光の聖魔法で土地を浄化しても、いっこうに改善しない。
王宮が贔屓にしていた美味しいコメができる水田は、収穫を前に立ち枯れてしまった。
今年は王家に買っていただけない。
我が家の自慢のコメだったのに、他の誰かが、その栄誉を戴くのだ。
お父様は、酷く落胆している。
国王陛下が認めた農地だと言うだけで、コメ以外も、野菜も高値が付いていた。
その野菜も、不作どころか枯れてしまいそうな状態だと報せが来た。
わたくしは学校をお休みして、領地に戻り、土地の浄化をすることにした。
これ以上、我が家の名誉を貶める事は避けなければならない。
光の聖魔術師がいる家庭なのに、農作物が全滅でもしたら、わたくしの名誉まで落ちぶれてしまう。
次期王妃と言われているのに、そんなていたらくな次期王妃なら、別を当たった方がマシとまで言われては、わたくしは我慢できない。
わたくしは、領地に戻ると、先ずは水源をどうにかしようと考えた。
水源に聖魔法を行うと、一時的によくなるが、二週間もすると、土地が穢れてくる。
何故か理由も分からない。
わたくしの聖魔術は、紛い物ではない。
人を治療することもできる、上位クラスの聖魔術師なのだ。
お父様もお母様も王都から、領地に戻ってきている。
お兄様は風の魔術師ですもの。
特に役に立たないので、王都に残り、王都の仕事をしている。
タン村だけに限らず、ヘルティアーマ王国の各地で、タン村と同じ現象が起きている。
水が干上がり、地面が乾く。
野菜には害虫がついたり、立ち枯れを起こしたりしている。
収穫する前に、枯れてしまうので、物不足になる。
農民も食べる物が無くなり、飢えて病気になったり亡くなったりと、被害は広がっている。
まだ秋の始まりだが、これが寒い冬になったら、人々はかなりの数亡くなるだろう。
飲み水がない。食べ物がないという状況は、どこの領民も苦しむ。
耐えられなくなった領民が、領主の元に助けを求めに来ることは目に見えている。
ヘルティアーマ王国にいる光の聖魔術師が招集され、各地に派遣されている状態だ。
わたくしは、国王陛下から、最初に被害が出始めたタン村の調査をするように言われている。
わたくしの名誉のため、国王陛下の台所のために、わたくしは、この現象をどうにか治めなければならない。
一度で浄化できないのならば、再度、浄化をして、水源近くの山々も浄化する。
川の水はいっこうに増える兆しがない。
わたくしが幼い頃は、この川は、水害が起きるほど、大量な水が流れていた。
水害が起きないように、川の幅を広げて、河川工事も行ったと言うのに、チョロチョロ流れる川は、まさに山間部に多い、山から染み出た水そのものだ。
湧き水だと言われてしまえば、そうかもしれないが、それなら、今まで溢れるように流れていた水はどこから湧いていたのだろうか?
川が移動した?
まさかそんなことはないとは思うが、湧き水の流れが変わったのなら、別の場所に流れている可能性もある。
領民達と山の中の捜索に入って、水源を探したが、新たな川ができている様子はない。
定期的に水源を浄化して、穢れは取るが、やはり土地は穢れてくる。
田畑の土壌も同じだった。
光の聖魔法で浄化すれば、一時期的に作物は元気になるが、時と共に、土地が穢れてくると作物の生長も悪くなる。
取り敢えず、作物が育つまではと思い、定期的に光の聖魔術をかけて、作物も育てる。
毎日、一日中、光の聖魔術をかけ続けて、わたくしもさすがに疲れてきましたわ。
でも、今、止めるわけにはいきません。
湧き水の量を増やしたい。
作物が収穫できるように、しなくては。
領民達は、わたくしに傅くけれど、きっと水が涸れてしまったら、石を投げつけられるだろう。
失敗で無くても、結果を出さなければ、全て失敗と同じなのだ。
ところで、この川は、ずっと昔から、わたくしが知っている大量な水に溢れた川だったのだろうか?
「お父様、お父様が子供の頃の川の様子は、どうでしたの?」
「うむ、そうだな、最近までの水に溢れた川ではなかった」
「では、どのような?」
「今の川のような、チョロチョロ流れる川であったような気がする」
「何ですって?」
わたくしは、最初に水の神様に、本来の水をお与えくださいと願った。
もしかしたら、この水の流れは、本来の水の流れだった可能性もある。
願いを替えることはできない。
神様との約束だ。
この約束を、やり直すとなれば、最初に願いをしたわたくしが死に、わたくしの後継者が再度、水の神様と約束をし直さなければならない。
わたくしは、頭を抱えた。
「でしたら、あの大量な水が流れ出したのは、いつからですの?」
「アルテアが生まれてからだ」
「わたくしが生まれてから?」
と言うことは、双子のミルメルが生まれた時と同じではないか?
ミルメルがいなくなってから、この現象が起き始めた。
「お父様、わたくし、王家の図書館で、この世には精霊王という水や土壌を豊かにする者がいると本で読みましたのよ。まさか、そんなおとぎ話のような事はないと思っておりましたけれど、まさかとは思いますけれど、ミルメルが精霊王と関係があったのではありませんか?」
「そんなおとぎ話のような話しは聞いた事もない。あのみそっかすのミルメルに、特別な力があるように見えたか?」
「見えませんでしたわ」
「では、勘違いであろう」
お父様は、乾いた笑いを浮かべて、顎の下に拳を持ってきた。
「まさかな」
ミルメルが生まれて、死んだら、豊かな大地が寂れてしまった。
そう、まさか……なのです。
ミルメルが、わたくしよりも価値があった等、あってはならないのです。
「まさかの話をしても仕方がありませんわ。わたくしは、光の聖魔術をかけに行きますわ」
「父も一緒に行こう。アルテアに何かあっては大変だ」
「お父様、ありがとうございます」
わたくしは、先ず湧き水が出る水源に向かった。
祈りを行う。
「どうか、水の神様、つい最近のような大量な水をお恵みください」
祈りを替えてみた。
水の神様は聞き入れてくれるでしょうか?
どうか、以前のような豊かな水と大地に戻してください。
わたくしは、何度も心の中で祈った。
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