第16話 ドレスの仮縫い

 ドレスの仮縫いは、1週間も経たずに出来上がってきた。


 それを着ると、わたしは、アクセレラシオン様と結婚をするのだと自覚した。


 ウエディングドレスの第一印象は、『素敵』だと思った。それから、ウエディングドレスは重いと思っていたけれど、想像よりずっと軽い。


 季節は夏なので、袖はない物を選んだ。なのでスッキリとしている。


 スカート部分は布が重なり、まるで花の妖精のようなドレスだ。


 リリエデザイナーは、クロユリをイメージして作ったと言った。


 言われてみると、ユリのようなドレスだ。


 クロユリは、テスティス王国の国の花だという。


 黒いドレスのイメージは今までなかったけれど、着てみると、黒髪にもよく似合う。


 わたしは、仮縫いで、もう満足してしまった。


 素敵すぎて、脱ぎたくないのが本音だ。


 嬉しすぎて、顔はとろけそうになっている。


 その顔を見た、リリエデザイナーは満足したようだ。


「サイズはぴったりですね。このまま本縫いを致します。王太子殿下、どうでしょうか?」


「よく似合っている。早めに仕上げてくれ」


「はい、畏まりました」


「ミルメル様、どうぞ、こちらに」


「はい」


 お店の店員が、わたしをエスコートして、クロークルームに入った。


「ミルメル様、お着替えを致しましょう」


「まだ着ていたいわ」


「直ぐに仕上げて参りますので、暫くお待ちくださいね」


「はい」


「では、着替えましょう」


「ええ」


「お手伝いを致します」


 マローとメリアが、手伝いに来てくれた。


「とてもお似合いになっていましたよ?」


「ありがとうございます」


 お店の店員は、手際よく仮縫いのドレスを脱がせてしまう。


 黒いドレスから、白いドレスに着替えて、マローが手を引いてくれる。


「直ぐにお茶の支度を致します」


「ええ、ありがとう」


 リリエデザイナーと店員は、ウエディングドレスを片付けて、素早く帰って行った。


 部屋には、アクセレラシオン様が、ソファーに座って寛いでいる。


「どうだ?気に入ったか?」


「ずっと着ていたいほど、気に入りました」


「そうか」


 アクセレラシオン様は、嬉しそうに笑って、わたしと手を繋ぐ。


 口づけで、魔力の行き来ができるようになってからは、今度は手を繋いで、互いの魔力を行き来させる練習をしている。


 暇さえあれば、手を繋いでいる。


 アクセレラシオン様の魔力は、手を繋いでいても吸うことができるようになった。


 キスと同じで、アクセレラシオン様の魔力を体内に溜めると、体が熱くなる。


 わたしの魔力を与えるのは難しいけれど、キスでコツを掴んだお陰か、できるようになってきた。


 わたしの魔力をぶつけても、アクセレラシオン様は、キスと同じで、甘さが増す程度だと言っている。


 なので、最近は、わたしの魔力を全力でアクセレラシオン様にぶつけるように、与えている。


「魔力の力も増してきた。婚礼までに、少しだけでも魔術を学ぼう」


「教えてくださるの?」


「婚礼は、来週にはできるだろう。さて、ミルメルの魔力の操作はどうだ?」


「どうかしら?」


 部屋には、たくさんの妖精達が浮遊している。


 窓が開いていても、閉じていても、妖精達は自由に行き来する。


 わたしの魔力の開花と同時に、妖精達も増えた。


 宮殿の中も庭も、そこら中に妖精達が集まっている。


「できたら、妖獣召喚を覚えて欲しい」


「難しいの?」


「いや、名前を見極め、魔力を溜めるだけだ。魔力は闇属性の力だ」


「闇属性の力と妖精の力は、違うの?」


「似ているが、厳密には違う」


「妖精の力は、妖力と俺は呼んでいるが、妖精達が大勢集まってくるような力だ」


「もう、この部屋の中にも宮殿にも一杯いるわ」


 わたしは、部屋の中をぐるりと見てから、アクセレラシオン様を見た。


「ミルメルの妖力も上がっているのだ。分かるか?」


「分からないわ。ただ、魔力の扱い方はできるようになってきたわ」


「そうだな?ミルメルから、強い力が来るようになった」


「まあ、本当に?」


 わたしは嬉しくて、えい!と魔力を放った。


 アクセレラシオン様のお顔が、少し赤くなって、わたしは微笑んだ。


「今の力で、妖獣を呼べる」


「あら、この力は妖力だと思ったわ。闇の力と妖力の区別は分からないわ」


「混ざっておるのだ。この部屋の妖精達は、半黒色に染まっておるだろう。俺もミルメルも闇属性だからだ」


「そうね」


 アクセレラシオン様は、指先に妖精を乗せて、わたしの手に乗せた。


『妖精王、早く結婚してよ』


『早く』『早く』……。


 妖精達が騒いでいる。


「ドレスができたら、結婚はする。暫し待て」


『分かったわ』


 妖精はわたしの手から飛び立った。


 飛び立った妖精は、部屋に控えているマローの頭に座ると、足をぶらぶらとさせて、マローの髪を結い始めた。


 あまりにノンビリとした雰囲気に、わたしは癒やされる。


「お茶を飲め。もう冷めただろう」


「はい」


「お茶を飲んだら、妖獣召喚の練習をするぞ」


「まあ、今日から教えてくださるの?」


「時間がない。魔術も教える。結婚式までには、多少なりと使えるようにしたい」


「とても楽しみだわ」


 わたしは、冷めた紅茶を飲んだ。


 喉は渇いているが、熱いお茶は暑い季節には、あまり適さない。


 わたしは、少し暑がりなのかしら?


「では、行くか?」


「はい」


 アクセレラシオン様に、手を引かれて、わたしは立ち上がった。


 マローとメリアが、お辞儀をしている。


「行ってきます」


「行ってらっしゃいませ」


 マローとメリアは、声を揃えて、答えてくれる。


 この国に来てから、わたしの孤独な気持ちは消えてなくなったようだ。


 アクセレラシオン様は、いつも側にいてくれる。


 アクセレラシオン様がいないときは、必ず、マローとメリアがいてくれる。


 わたしを貶す者はいない。


 食事もたくさんいただける。


 わたしは、もうヘルティアーマ王国には戻りたくはない。

 


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