第12話 婚礼の日和

 10時のお茶の時間は、時間が合えば、国王陛下もご一緒する。


 最近では、わたしがお茶を淹れている。


 それほど、上達したのだ。


 王妃様もデイジーお姉様も満足げだ。


 栄養失調だったわたしも、普通に食事が食べられるようになり、おやつも食べられるようになった。


 今日のお茶会は、王妃様とデイジーお姉様に加えて、国王陛下とアクセレラシオン様も一緒だ。


 テスティス王国は、平和な国だという。


 闇の属性持ちばかりなので、団結力が強いらしい。


 民には、仕事があり、それなりの収入があるので、経済も安定しているという。


 悪事を働く物は、0ではないが、他国に比べると少ないと言われている。


 治安を守る刑務官が、街を巡回しているという。


 ヘルティアーマ王国では、騎士団と呼ばれている者達だ。


 街で攻撃魔法を使えるのは、刑務官だけらしい。


 仕事で攻撃魔法を必要としている者は、国の許可書が必要で、それに背くと刑を言い渡されて、投獄されるそうだ。


 規律が厳しいのも、平和のためだという。


 闇属性を持っているが、攻撃魔法を学べる場所は、主に刑務官訓練場だけだという。


 後は、王族と、王族を守る上位刑務官と王族の側近という職務だけだという。


 なので、わたしが無理に攻撃魔法を学ぶ必要はないのだという。


 王妃様とデイジーお姉様は、学んでいないらしい。


 アクセレラシオン様が、わたしに攻撃魔法を学ばせようと思ったのは、わたしが妖精の申し子だからだと言う。


 テスティス王国は精霊に愛された国だけれど、精霊王も精霊の申し子も、いつ、どこに生まれるか分かっていないらしい。


 どこの国でも、噂では、その存在は知っていても、会ったことはないと言う。


 アクセレラシオン様が生まれた時に、精霊王だとわかり、精霊の申し子が誕生すると精霊達が騒いだのは、テスティス王国の王族だけが知っていることだ。


 どこの国でも、妖精が見えて、話ができる者の存在を欲しがっているそうだ。


 妖精の申し子の存在を、他国は探しているらしい。


 精霊王が愛して止まない精霊の申し子を捕まえておけば、精霊王が姿を現すと言われている。


 なので、精霊の申し子であるわたしは、誘拐されやすいと言われた。


 万が一、命を狙われた時に、わたしが自衛できる力を身につけさせたいと言っていた。


 誘拐されるのも、命を狙われるのも嫌なので、自衛できるのなら自衛したいとわたしは思うのです。


 守られるだけではいけない。


 アクセレラシオン様に危険が起きたときに、助けられなかったら、わたしは一生後悔することになると思うのです。


 ならば、戦う術は身につけておきたい。


 アクセレラシオン様は精霊王として誕生しておいでだけれど、この国の国王陛下にもなられる。


 わたしと結婚して、二人の間に、子供ができ、子供が成長したら、国王陛下の座は子供へと譲渡される。


 そうしたら、精霊王として生きて行くのだという。


 精霊王は永遠の命を手に入れる運命を持って生まれてくると言われている。


 そうして、精霊王は一緒に生きて行く伴侶に永遠の命を授けることができる。


 しかし、精霊王にとって、一番幸せなのは、精霊の申し子と呼ばれる伴侶を手に入れる事だと言われている。


 精霊の申し子は、精霊王にとって、特別に愛おしい相手になる。


 そして、精霊の申し子を伴侶とできた精霊王は、偉大な力を手に入れる事ができるそうだ。


 なんだか、物語を聞いているようだ。


 わたしが精霊の申し子だと言われても、信じられない。


 けれど、アクセレラシオン様が精霊王だと言われると、そうかもしれないと思うのだ。


 精霊王のアクセレラシオン様が生まれてからは、テスティス王国は肥沃の大地となり、作物もよく育ち、水にも困る事がなくなったらしい。


 精霊がいる国は、平和で国が豊かになるという。


 精霊の国もあるそうだが、アクセレラシオン様は永遠の命をもらったのだから、知る者がいなくなったら、わたしと二人で、妖精の国に移住するつもりだと、将来を語った。


 できるだけ早く結婚をしたいとアクセレラシオン様は言っている。


 万が一、わたしに危害が加えられたら、万が一、わたしが病気になってしまったら……と万が一ばかりを考えてしまうのだという。


「早く結婚すればいいじゃないの?」とデイジーお姉様は茶化している。


 国王陛下は、国の祭りになるからと言っているが、アクセレラシオン様は国民には「お披露目は後ですればよい」と譲らない。


 王妃様は「好きになさい」とどちらの肩も持たない。


 わたしは、アクセレラシオン様と結婚したい。


 今まで、わたしを愛してくれた人はいなかったから、わたしを愛してくれるアクセレラシオン様と一緒にいたい。


 魔法は、他者からわたしを守るために学ばせたいと思っているからだと教えてくれた。


「貴方、国王陛下より、精霊王の方が立場が上でしょう。精霊王は国の神様よ。アクセレラシオンは、精霊王になっても国王陛下になってくれると言っているのだから、アクセレラシオンの好きにさせなさい」


 なかなか折れない、国王陛下に、王妃様がコツンと拳骨を落としたような発言をした。


「わかった、結婚はいつするのだ?ドレスはあるのか?」


「ドレスは至急作る。ドレスができたら、地下神殿で式を行う」


「好きにしろ」


 国王陛下は、どうやら王妃様には弱いらしい。


「では、今からドレスを発注しよう。行くぞ、ミルメル」


「アクセレラシオン、お茶くらい、ゆっくり飲んでからにしなさいね。せっかくミルメルが淹れてくれたお茶よ?」


 王妃様が呆れて、デイジーお姉様はクスクス笑っている。


「ミルメルちゃん、タルトも食べてね。イチゴが美味しいわよ」


「はい、デイジーお姉様」


 お茶を並べて、椅子に座ったわたしの前に、デイジーお姉様がイチゴタルトを置いてくれました。


 ホークを使って、イチゴを食べると甘酸っぱい。タルト生地の上にカスタードクリームと生クリームが載っていて、とても甘くて美味しい。


 わたしの顔を見た、アクセレラシオン様は、一度は浮かしたお尻を椅子に戻して、一緒にお茶会を楽しんでくれるようです。


 お皿に、わたしと同じイチゴタルトを取りました。


 わたしは、テスティス王国に来て、いろんな食べ物の名前を覚えた。


 王妃様とデイジーお姉様が、毎日、お茶会をして、一つずつ教えてくださったのです。


 真っ赤に熟したイチゴの美味しいこと。


 母国では食べたことがありませんでした。


 イチゴは見たことはありましたが、その味は知りませんでした。


 こんなに甘くて、ちょっぴり酸っぱい物だと、この国に来て、初めて知ったのです。


『美味しいか?ミルメル』


『嬉しそうな顔をしているわ』


『ミルメルが嬉しそうだと、僕は嬉しい』


『ミルメル、もっとお食べ』


 妖精達が集まってきて、わたしの周りに浮遊しています。


 とても可愛くて、それにわたしを応援してくれる子達です。


 いつもはアクセレラシオン様の近くにいる子達ですが、わたしとアクセレラシオン様が一緒にいると、わたしの近くに寄ってきます。


 この四体は、よくわたしの側にいます。


 掌くらいの大きさで、髪の長さは肩までの子達です。


 髪と瞳の色は黒くて、薄い羽も僅かに黒く見えます。


 この子達は、アクセレラシオン様やわたしの魔力を餌にしているようで、闇属性の魔力を吸っているから、黒っぽくなっているのだと、アクセレラシオン様が教えてくださいました。


 魔力意外にも精霊の力を吸っているそうです。


 わたしにも精霊の力があるのか分かりませんが、アクセレラシオン様とこの子達も言っているので、そうなのでしょう。


 この子達は、洞窟の中を案内してくれた子達です。


 他にも妖精はいます。


 部屋の中にも、外にも、妖精はたくさんいます。


 お花の蜜も好きなのか、お花の側に、たくさん集まっています。


 わたしの頭の上にも座っていますし、アクセレラシオン様の頭や肩にも座っています。


 わたしは、心の中で『美味しいよ』と言うと、妖精達は喜んでくれます。


 アクセレラシオン様も微笑んでいます。


 心の声も、聞こえるようですね。


 10年以上前から、わたしの声が聞こえていたそうです。


 なので、あの洞窟に入って、わたしの存在を確かめたのだと教えてくださいました。


 ちょっと恥ずかしいけれど、特別な力でわたしとアクセレラシオン様は結ばれているようです。


 ただ、わたしには、アクセレラシオン様の心の声は聞こえないのです。


 何故でしょうか?


 アクセレラシオン様に聞いたら、 そのうち聞こえるようになると言っていました。


 そうなったら、以心伝心ですね。


 でも、わたしはアクセレラシオン様の声が好きなので、心の声ではなくて、アクセレラシオン様の声で、お話しして欲しいのです。


 お茶会が終わると、アクセレラシオン様は、国王陛下に「では出掛けてきます」と言って、わたしの手を握りました。


 王妃様もデイジーお姉様も「行ってらっしゃい」と言ってくださいます。


 わたしは「行ってきます」とお辞儀をしました。


 皆さんとは、実の家族より家族らしく感じます。


 優しさが伝わってきます。


 本当に、この国に来て、よかった。


 アクセレラシオン様に会えて、よかった。


「ミルメル、ドレスを見に行こう」


「はい」


 アクセレラシオン様は嬉しそうな顔をして、わたしの手を引いてくれます。


 まだ街を見て回っていないので、外出も楽しみです。


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