第9話 魔力の出し方

 どんなに美味しい食事でも、普段から食べる量が少なければ、たくさんは食べられない。


 毎日、スープとパン一個だったわたしは、ギリギリ食べられた。


 朝食の量だったので、助かった。


 アクセレラシオン様はお代わりを頼もうとしたが、「お腹がいっぱいです」と謝罪した。


 アクセレラシオン様はスープとパンをお代わりをして、最後にデザートが出てきた。


 卵と牛乳で作られた甘い物だという。


 アクセレラシオン様はそれをプリンと言っていた。


 美味しいから食べてご覧と言われて、食べてみた。


 なんて美味しい物でしょうか?


 お代わりは、とても無理だったけれど、一個はいただいた。


 お腹は、もう一杯で、これ以上は食べられない。


 アクセレラシオン様は、わたしの食事量の少なさに驚いていた。


 昼食や夕食は、少なめの物を作って欲しいとシェフに頼んでくれた。


 慣れてくれば食べられるようになるだろうと言っていた。


 シェフと食育の話しをしていた。


 どうにか普通の食事が食べられるように、これから、わたしの食事は考えられるようだ。


 アクセレラシオン様はコスモス医師にも相談をしたようだ。


 コスモス医師曰く、この間の足の治療と一緒に、全身も治療してあるので、現在病気はないと言われたらしい。ただ、栄養失調なので、食事は少しずつ取るようにと指示が出されているという。


 虐待まがいの生活を強いられてきたので、それも仕方がない。


 もうちゃんと食事をもらえるのだから、すぐに元気になれるような気がするのです。


 国から逃げてきてよかった。


 お茶の時間に、おやつも出されるようになった。


 甘い物はおやつとかデザートと呼ばれる物だと教わった。


 今までお茶の習慣がなかったので、淑女のマナーとして、紅茶の入れ方を王妃様とデイジーお姉様に習っている。


 テスティス王国に来て、二ヶ月ほど経って、やっと生活が落ち着いてきた。


 食事も食べられるようになってきたし、紅茶も淹れられるようになった。


 礼儀作法は、ヘルティアーマ王国式の物は習得しているが、テスティス王国の物を習った。


「ミルメル、魔術の練習もしてみるか?」とアクセレラシオン様が、お部屋でお茶の入れ方の練習をしていた時に、声をかけてきた。


「本当ですか?」


 わたしは、闇を吸い取る魔術しかできません。


 それも長時間は無理です。


 魔力の使い方が悪いとアクセレラシオン様に言われています。


 使い方が悪いと言われても、治しようもないのです。


 全く知らないのですから。


 嬉しい気持ちが爆発して、アクセレラシオン様に抱きついていた。


「本当に?本当ですか?」


「ああ、本当だ」


 アクセレラシオン様は嬉しそうに、答えてくださいました。


「教えてください。ずっとみそっかすと呼ばれていたのです。とても屈辱的でした」


「そうか、それなら魔力の出し方の練習からしてみるか?」


「はい」


 わたしは、急いでティーカップを片付けて、アクセレラシオン様が座っているソファーへと急いだ。


「まずは、手を繋ごう」


「はい」


 わたし達は向かい合って、両手を繋ぎました。


 すごくドキドキします。


 魔力の練習をすることも、アクセレラシオン様と手を繋ぐことも、互いに向かい合って視線を合わせることも、全てにドキドキしてしまいます。


「まずは、俺が魔力を流すよ。分かるかな?」


「魔力ですか?」


 わたしは真剣に体に異変があるか、じっと感じようとしましたが、何も変わりません。


「分かったか?」


「分かりません」


「そうか、それなら、ミルメルの魔力を俺に渡すようにイメージしてみてくれるか?」


「はい」


 わたしは自分の中にある何かをアクセレラシオン様に渡そうとしてみました。


「やっているか?」


「はい、届きませんか?」


「うーん、どうして、来ないかな?ミルメルは魔力の循環はいいのに」


 アクセレラシオン様は、真剣な顔で考えている。


「わたしに魔力はないのかもしれません」


「それはない。ちゃんと魔力はある。魔力の出し方が分からないだけだ」


「魔力はどこにあるのですか?」


 アクセレラシオン様は手を離すと、わたしのお腹に触れた。


「魔力は全身にあるが特に腹辺りだ」


 わたしは、アクセレラシオン様が触れているお腹に触れた。


「直接、注ぐよ。温かく感じるかな?」


 わたしは目を閉じて、お腹に意識を向ける。


 じんわりとお腹が温かく感じる。


「お腹が温かくなりました」


「この感じだ。俺の魔力をミルメルに注いでいる」


「とても温かく、でも、なんだか、頭がぼんやりしてきました」


「俺の魔力を返してくれるか?」


「どのように?」


「俺の腹に触れてみるか?」


「はい」


 わたしは、アクセレラシオン様のお腹に触れて、熱を返そうとしましたが、なかなか上手くいきません。


 体が火照ってきて、わたしはアクセレラシオン様にパタリと凭れかかってしまいました。


「体が熱いです」


「魔力を注ぎすぎたか?」


 アクセレラシオン様はわたしの唇にキスをして、口の中に舌を入れてきました。


 舌が、わたしの舌に絡まります。


 キスは初めてでしたけれど、拒む元気がありません。


 されるがままです。


 徐々に熱が引いてきました。


 もう大丈夫と肩を押さえようとした時に、また、体が熱くなってきました。


「んんっ」


 体から力が抜けてしまいそうです。


 アクセレラシオン様の肩にしがみついて、「無理」と言いましたが、「熱を戻して」と、またキスをされました。


 体が熱くて、でも、戻せません。


 体を捩って、アクセレラシオン様の肩を叩くと、熱が引いていきました。


 熱が引いていくときは、とても気持ちがいいのです。


 唇が離れても、わたしはアクセレラシオン様にしがみついています。


 体から力が抜けてしまったみたいです。


「今、ミルメルから、魔力を抜いた。俺から奪ってみろ」


「力が出ません」


「魔力が尽きかけておるからだ。さあ、やってみろ」


 また唇が重なり、舌が絡み合います。


 魔力をちょうだい。


 このままだと倒れてしまう。


 アクセレラシオン様にしがみついて、直ぐ近くにある熱をもらおうとするのですが、なかなか熱が吸えません。


 舌先が熱に触れて、押し出されてくる熱を吸えた。けれど、まだ足りない。


 意識が朦朧としてきたときに、体の中が温かくなってきた。


 唇が離れて、アクセレラシオン様が「少しできたではないか。偉いぞ」と褒めてくださいました。


 けれど、魔力の移動は、とても疲れてしまう事が分かりました。


 わたしはアクセレラシオン様にしがみついたまま、眠りに落ちていきました。



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