祓い屋助手候補のホスト6
(特におかしな気配は……)
なさそうだ。
ただ、いくら俺がゆりあに連れ回されたことで少しカンが磨かれたからといって、人皮に包まれた妖がいるかなんて、わかるのだろうか。
あさひに対しても、俺はちょっと苦手だと思うくらいで、ほとんど何の異変も感じていなかった。結果的に俺の感覚があさひの正体を見破るのに寄与したとはいえ、あさひへの違和感も、同僚として付き合って行く上で覚えるようになったものだったので――いざ来たばかりでそういう
「どう、れいぴ。ささいな違和感でもいいんだけどぉ」
「俺としては特に……。強いて言うなら晴人が人より強いオーラみたいなの持ってるけど」
「……ん〜?
あ。言われてみれば確かに。さすがれいぴ、よく気づいたね」
ゆりあが、向かいのテーブルで姫ときゃいきゃい離している晴人を、むむむ……と唸りながら眺める。晴人のまわりは、じんわりとした白いオーラのような力に包まれているように見える。
「――でも霊能に通じてなくても、芸能人とかカリスマホストとかでも、あのくらいのオーラまとってる人はいるよね? 気配が強いって言うか……運が強い加護を生まれながらにして持ってるっていうか。
だから晴人が人皮かぶった妖かどうかは断言できないね」
「……まあ、そうだな」
晴人の気配が強いのは、危ない妖でもなんでもなく、単に世の中にいるカリスマたちのようなオーラを持っているだけの可能性――いやそれはそれとして同業者として腹は立つけども。
俺よりもカリスマがあるとオーラで示されているみたいで。
(まあ、年間の売り上げじゃ俺の方が上なんだけど)
そう考えると、そこまで悔しがる必要がない感じがしてくるから不思議だ。
――いつの間にか隣に新しいヘルプが来ていて、また三人での歓談――と言う名の、ゆりあの情報収集がはじまる。
やることもないので、俺も一緒になってヘルプのホストからいろいろな情報(当然、ゆりあの任務に関係することだけではなく、自分のお仕事に有利なことについてもだ)を聞き出していると、
ふと。
「ハァ? 何それ★ 今月は70万いけるって言ってたよね?」
何やら先ほどまで楽しくやっていたらしい向こうのテーブルで、そんな声が聞こえてきた。
晴人の声だった。
その声は決して大きいものではなかったが、晴人の声は元メン地下らしく男にしては澄んでいるので、聞き分けやすい。おまけに俺は耳も目もいいので、晴人と姫の会話内容も聞き取れた。
姫は量産系女子といわれそうなファッションに身を包んだ、まあ、結構――かなりかわいい顔立ちの女子だった。茶髪で、白いワンピースの、どこか気が弱そうな感じの。
「それなのにもう払えない、だなんて。ひどいな……大好きだって言ってくれたのに、僕に嘘つくんだ?」
「そ、そんな、嘘なんかじゃないよ。でも、あたし、もう今月は無理で……」
「僕への愛が足りなくなったから、無理なんでしょ?」
「ちが……、まってはるちゃん!」
(う、うわ~~~~~)
修羅場じゃん。
ホストではよく見かけるタイプの修羅場だが、なんだか他人の営業を見ていると居たたまれなくなって、俺は頬を引き攣らせた。
……晴人はもちろん、本気であんな台詞を言っているわけではない。相手に罪悪感を持たせるために演技をしているだけだ。罪悪感を持った客は、自分が悪いからお金を払わなくてはならないという気持ちになってくる。
裏切られた、嘘をつかれた、と泣いて、相手に何が何でもお金を使ってもらおうというテクニックを駆使しているのだ。――一種のマインドコントロールである。
「あの子、みれいちゃんて言うんですけど。めっちゃかわいいですよね。晴人さんのエース級の姫ですよ」
ヘルプのホストが、俺の向こう側のテーブルへの視線に気が付いて言った。
「あんなかわいいのに、マジでよくやりますよね。鬼詰めっつうか」
「まあ、接客方法は人それぞれだからさ」
「おれならあんなかわいい子相手だと、あんなふうに演技までして、金金言えないですよ。やっぱり億プレイヤ―ともなると女なんて全員ATMにしか見えなくなるんですかね? レイヤくんもそうなんですか」
「……姫はみんな大事だよ」
笑顔で言いながら、(
演技、か。
なんということはない、ホストなら誰だってやっていることだ。
客の顔立ちは、接客には別に関係ない。かわいければかわいいに越したことはないが、今は整形で美人を作れる時代だし、かわいいからといって落とす金が少額であれば『トクベツ』にはなりえない。
女を自分に惚れさせて、金を貢ぐことこそが、
(……そう思うと。稼ぎたいから、有名になりたいから、キラキラしてみたいから……ってだけで軽々しく入るべき世界じゃねーよな)
女との
そんなリスクを抱えながら、俺は変わらず化け物たちに囲まれながら、その「ホスト」をやっている。
ままならない世界だ、本当に。
「じゃあもういいよ★ みれいが僕のこと好きじゃないって言うんなら、他に僕のことを好きになってくれる人を探すから。みれいはもう帰れば?」
「ま、待って、はるちゃん! もう少ししたらちゃんといっぱいお金使えるから! ね!」
「もうみれいのことは信じられないよ」
「~~~~わかった! 今日、ちゃんと使うから……! 掛け、でもいい?」
「本当に?
僕は信頼してる子にしか掛けさせないけど……みれいならいいよ。みれいが僕のこと好きだって気持ち、伝わってきた」
「はるちゃん……!」
これも、ホストクラブではよく見る光景だ。
きらきら目を輝かせる「みれいちゃん」は、結局金を払うことになっている。
そんな茶番劇を気にしているのかいないのか、ゆりあは立ち上がると、「じゃあそろそろ行こうか~」と言った。
俺たちと同じように日陰の世界で、怪異の掃除をしているはずのゆりあの目には、女を食い物にして、負の感情を生み出すようなホストのことは――実際のところどう映っているんだろう。
(……まあ、そんなの、俺が気にするべきことじゃないかもしれないけど)
俺だって晴人とは同じ穴の狢だ。
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