祓い屋助手候補のホスト4

「というわけで〜やって来ました! ホストクラブ♡」

「なんで???」 


(ほんとになんで?????)



 休みの日。

 ほぼ週に五日から六日出勤している俺の、貴重な休日である。

 

 ホストはエースであれば休日も会いに行くことはあるが、珍しくゆりあに呼び出されたかと思えば――というか事前に約束を取り付けられていた。こいつはそういうところ社会人っぽい――俺は何故か、【AGELESS】ではない他のホストクラブに連れてこられていた。

 

 何故だ――。


「ここが『Rose』かぁ。【AGELESS】と同じグループの店なのに、なんか雰囲気違うね」

「……うん……? まあ……だな……」


 俺は半ばぼんやりとしたまま頷く。


『Rose』。

【AGELESS】を運営するグループである、インフィニスグループのホストクラブであり、主にカワイイ系のメンズ地下アイドル顔を集めた店として人気を博している。

 ナンバーワンプレイヤーである晴人は億を稼いでおり、俺もYouTubeのホスト企画動画とかで一緒になったことがある。


 ……まあ、ホストとて他のホストクラブに行くことが皆無ではない。偵察目的で接客受けにいく奴もいるし、他店の稼ぎ手を見て勉強しにいく新人もいるらしい。

 また、ホストとて姫になることもある。かくいう俺も男のはいる。

 ――が、


(俺はなんでゆりあと一緒にホストクラブに……? ???)


 意味がわからない。

 わからないが――二人揃って店に通され、俺がぽかんとしているうちに、いつの間にか俺とゆりあのテーブルにはホストがついていた。

 

 ――前髪にローズピンクのメッシュが入った、女めいた顔立ち。

 女が可愛いと騒ぐそいつこそ、この店のナンバーワンである晴人であった。


「わー★ レイヤくんだ! 姫連れて偵察〜? それとも姫の公開浮気〜★?」

「すごぉい! 晴人だぁ! 本物〜♡」

「こんにちはかわいいお姫さま★ お名前は?」

「ゆりあでーす♡」


 面食いを自称するゆりあがきゃっきゃとはしゃぎながら自己紹介している。

 

(マジで何が起きている……?)


 お気に入りの指名ホストを担当と呼ぶが、ホストクラブにて基本的に担当替えは裏切りとなる。ホストでは基本的に永久指名制度となり、一度指名したら担当を変えることができない仕組みになっているからだ。

 とはいえルール的に禁忌なのは同じ店だけなのだが――担当をかかえた状態で、他店のホストと密な関係となる(本命ホストを二人持つ)のは、やはり裏切りと見なされる。金で結ばれた関係なのにおかしな話ではあるが、浮気と同義になるのだ。


 が。


(俺が一緒に来てるってことは……担当替えうわきとかじゃないだろうし)


マジでなんだってんだ。

ゆりあは何をしたいんだ。


「それでゆりあちゃんはレイヤくんの姫なんでしょ? どうしてレイヤくんつれて他店来てるの?」

「サブ(※本命ホストが出勤していない時に指名するホスト、本命ではないけど推しているホストなどのこと。これを持つのは別に浮気とは言えない。ややこしい)探し〜♡ れいぴを連れてきたのは浮気じゃないよって証明するため♡

 【AGELESS】はれいぴと同系統のイケメンばっかりだからぁ、違う顔の推しがほしいんだぁ」

「なぁるほどね〜★」


 ゆりあはイケメンのATMになるのが生きがいだからー、とニコニコ言うゆりあを見て、「気合い入った姫がいるんだな」みたいな目でこちらを見てくる晴人。


(気合いが入った姫っていうか、そいつ単にイケメンに貢ぐのが趣味の金持ちだけど……)


 歓談している晴人とゆりあを横目に、頭の上に大量のハテナを持て余していると、

 どうやら晴人の客が高額ボトルを頼んだらしく、晴人がその姫の元へ向かうべく席を外した。


 ようやく人がいなくなったので、俺は「今日ホントにサブ探しのためが目的でここに来たのか?」と聞いてみる。

 ゆりあはニッと笑うと、


「それもまあなくはないけど」

(なくはないんかい)



「――主目的は聞き込みのためだよ」

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