祓い屋助手候補のホスト3
*
「人に擬態できる?」
「そう。それが、
「へえ……そんなものがあるんだな」
営業時間中の【AGELESS】店内にて。
そういえばあさひが使っていたものについて、激しく詰問していたなということを思い出して尋ねてみると、ゆりあは思いのほかあっさりと教えてくれた。もちろん、あんまり人に聞かれたい話でもないのでヘルプはつけていない。
しかし妖が人間に化けられるなんて、なんつう物騒なアイテムだ。
人皮なんて名前も最悪である。
「ううん、ゆりあもほとんど聞いたことなかった。妖が人間に成り代わったり擬態するのは難しいの。人とは違う気配が漏れちゃうしね」
「確かに。でも、あさひは気づかなかったな」
「そこが問題なんだよ。Sであるゆりあよりも感知に長けたれいぴでも気がつかないような擬態。それをお手軽に出来ちゃう品が、妖たちの間に出回ってるって、めっちゃ厄介なことなんだよね」
「……だろうな」
俺はゆりあの頼んだ酒を煽りながら頷く。
――妖は基本的に人を食べて強くなるという。
ということは、人に擬態してすることは、人を喰らうことなのだろう。俺みたいに霊感があるやつや、ゆりあみたいに一般人に擬態してやってくる祓除師すら欺けるのなら、
(……マジ、最悪なアイテムだな。人間にとっては)
「妖怪にもそんな闇のマーケットみたいなものがあるのか?」
「それも調査中なんだよねぇ。そもそも人皮を売りさばいてるのが人間なのか妖なのかもわからないしぃ……国怪対はゆりあに丸投げで人寄越してくれないしぃ……もぉ〜病みそう」
「……やっぱり、人手って、足りないもんの?」
「まあ人手は足りないけど。……お偉いさんの護衛とか、金のあるやつが巻き込まれそうな案件が優先されるんだよ」
組織ってそういうもんだから。
そう言うゆりあの目は、ひどく冷めている。
「まあ国怪対はお国の組織だけに一門よりかはマシなんだけどね〜。まあそれでも面倒くさいしがらみはあるんだよぉ。なんせゆりあはハタチにして天才祓除師だからぁ」
れいぴ慰めてぇ〜、としなだれかかりながら腕にしがみついてくるゆりあ。
……今まで気にしたことがなかったが、腕に触れる手のひらが、ひどく固いことに俺は今さら気がついた。それが剣だこだと、遅れて気づく。
そりゃあそうか、とグラスをテーブルに置いた。
ゆりあは自称の通り天才なんだろう。
だが、初めから強かった訳ではない。命をかける仕事で、傷ついてこなかったはずがない。
「……ゆりあさぁ。仕事イヤになることないの」
「ん?」
「人手不足でかつ天才って、それもうほとんどその業界に縛り付けられてるようなもんじゃん」
ゆりあはぱちりと大きな目を瞬かせると、「んー」と唸って首を捻った。
「まあ、ダルいな〜って思うことはあるよ。怪我することもあるし、痛いし。……でも、せっかく祓除の天才として産まれたんだから、力を活かせることがしたい。強い
だから、この仕事に打ち込んでるんだよ。この格好してるのと同じ理由」
ゆりあがぽんと自分の胸を叩く。
コテで巻いたハーフツインの黒髪に、ピンクのボレロブラウスに、黒いスカート。レースの黒いニーハイ。
「こういう格好してるとうるさく言うヤツらもいるけど、ゆりあは好きだからこういうファッションでいる。任務もそう。おんなじ。好きだからやってる」
(祓除とファッションが同じかよ……)
「れいぴは逆に嫌になることあるの? カリスマホスト。ゆりあ、天職だと思うけどな〜」
「俺は……」
天職は天職だ。それはわかる。
俺は女に夢を見せ、代わりに対価に金を貰うこの仕事に向いている。
でも辞めたいとは思っている。
金が溜まったら辞めたい。こんなあぶねぇところで働き続けられるか、と思う。
……だから、ホストをやってる自分が好きかと言われると、わからない。
頭からこの業界に浸かって、もう抜け出せないということだけはわかる。――けれどもこの仕事が好きだからやっているとは、言えない。
「俺はないよ。ゆりあの言う通り天職だし、俺は姫を喜ばせるために生まれてきたのかもってたまに思うもん」
とはいえそんなことを馬鹿正直に
俺はカリスマホストらしい顔を作って、ゆりあに笑いかけるのだった。
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