祓い屋助手候補のホスト2

その真っ直ぐな眼差しに射抜かれ、

 思わず高額ボトルを躊躇なく入れられた時のようなときめきが胸に去来しそうにり、


(って揺らぐなァ!

 トゥンク……じゃねえよ!)


 俺は思わずテーブルにダァン!と音を立ててグラスを置く。すると廊下を挟んだ隣のテーブルの後輩ホストが「何!?」みたいな目で見てきた。俺のせいじゃない。


 ゆりあが不満げに眉根を寄せる。


「え〜、ダメ?」

「……いくら姫のお願いでも、これはな……わかってくれゆりあ、俺は今まで妖? にはかかわらない人生を送ってくるように頑張ってたんだ」

「え? ホスクラで働いてるのに?」

「……」


 ぐうも音も出ない。俺はそっと目を逸らした。――そう、夜職には妖が出やすい。

 

 わかってるさ俺だって。でもやめられないんだよオーナーの目が怖くて!

 あと金が後から後から入ってくるこの立場、手放し難い。


「ねえ〜、ほんとにダメ?」

「むり」

「いますぐお店でいちばん高い酒入れても? 今月カイト(※ナンバーツー)に迫られてるんでしょ……?」

(脅迫ぅ……!)


 俺が答えずにいたら、ゆりあはすかさず、店でもかなり高額のボトルを注文した。最高額には届かないものの、今日のラスソン――その日に最も売上が高かったホストが、閉店前に好きな楽曲を歌える――は確実に取れるレベルのボトルだった。

 焦らし方を『解って』いる女である。


 それでも俺が頷かないでいると、


「……も〜、まあ、怖いのはわかるからぁ、無理には誘わないけどぉ。

 でも、れいぴ。これからも……ゆりあのこと邪険にしたりしない? 担当として仲良くしてくれる? 同伴もしてくれる?」

「それは、当たり前だろ。お前は俺の唯一の理解者だし(エースだし……)」


 するとゆりあはこんなことを言い出した。

「それにゆりあ、れいぴのこと心配なんだ。力の使い方がわかっていないと、無闇に妖を呼び寄せたりしちゃうから」と。


「……だから、ゆりあがちょっとずつこっちのことを教えてあげる。ゆりあ、推しイケメンには健やかでいて欲しいから。

 そのくらいはいい?」

「ああ、それくらいなら……ゆりあの気持ち、嬉しいし」


 が、ここで頷いたのは失敗だった。

 以降、俺はゆりあに――同伴やアフターの時間を使って――あっちこっち妖怪スポットを連れ回されて祓除の仕事をの見学をさせられることになったのである。

 







「――よっと! 

これでとりあえずは何とかなったかな」


 ムカデを切り捨てたゆりあがこちらに歩いてくる。

床に転がる廃材を軽い足取りで避けながら、手にした刀を振って――血を払っているらしい――鞘におさめる。

 

(マジでどうしてこんなことに……)


 あちこち連れてかれることがわかっているのなら同伴もアフターも断ればいい話なのだが、チップという名の豊富な報酬が出るし、何より危ない目に遭うことがない。

 俺はあくまで見学で、ゆりあの戦い振りを間近で見るだけだ――グロくて精神を削られるけれども。それに今は最悪な気分でも、いずれ慣れる、というたしかな予感があった。


 ――それから、何度かゆりあの『任務シゴト』に同行することで、なんだか妖の気配に敏感になったように思う。

 ショック療法もいいところだったが、なヤツがいた時にも、あまり動じない強心臓になれたのは、そして、そういう奴らのことを自ら避けることができるようになったのは正直なところ――棚から牡丹餅というか、瓢箪から駒というか、いや、災い転じて無理やり福となすというか。

 なんにせよ、好都合ではあった。


(何も無いところで驚いたり、怯えたりすることがあるっていうのは、には異常に見える。

 ……異常バグは排除されるのが、社会。普通でいられる)


 俺は普通じゃない。

 だから普通に生きられない。

 

 普通じゃないなら、いつ社会に溶け込めなくなるのかわからない。

 だからこそ金はいくらでも必要だし――年齢というタイムリミットがあるにしたって、ホストは俺の天職だ。

 辞められないなら、なんとしてでも王座に君臨しなければならない。でなきゃ割に合わない。


(そのために、ゆりあはなんとしてでも離しちゃいけない客……)


 無茶ぶりがあろうと、俺はこいつの担当から外れる訳にはいかないのだ。


「じゃ、帰ろっか♡ れいぴ!」

「……おー」


 それに、ゆりあが俺の唯一の理解者なのは、変わらず本当のことだ。

 同じ世界を共有できる人間を、今のところ俺はゆりあしか知らないのだから。


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