祓い屋助手候補のホスト1

「今日のアフターは……ここっ!」

「……ここ……え? ちょ、ゆりあ、レストランは?」

「えっ、れいぴ、ここちゃんとレストランだよ? あっ、過去形だけど。殺人事件が起きて廃ビルになっちゃってるけど」

「……」


 俺は照明もつかず、家具もなく、ただただ荒らされているだけの空間を呆然と見つめた。

 いい笑顔のゆりあは、ココ最近で黒刀を携え、いい笑顔でいる。

 

 ただの、荒れた空間だ。元レストランの。

 殺人事件が起きてテナントも入らなくなった廃ビルのワンフロア。


 ――ただしのは、霊感のない者だけだろう。

 俺には、恨みや憎しみから生まれたらしい、下半身がムカデの大きな女がフロアの真ん中で牙を向いているように見えている。


 

『シャハ――キャハハハハッ! いい男ォ!

 ――食べちゃいたぁい……』


 

しかもこの化け物さん、なんか不穏なこと喋ってるんですけど……。

 

「……何……この……『犬夜叉』の序盤で出てくるような化け物……」

「ぉぉっ、さすがれいぴ♡ たしかに見た目似てるかもぉ! こいつはストーカーしすぎて逆にパニックになった男にレストランに刺殺された女の思念が妖化したものだよ♡」

「ものだよ♡ じゃないんですけど!?」


 俺は叫び、化け物がその爪の生えた手を振り下ろしたのを見て、あわててその場を飛び退く。

 ゆりあが地を蹴り、振り下ろされた化け物の腕を付け根から刀で切り飛ばす。――悲鳴。


(まっじっでなんなんだよ〜〜〜!) 


 俺は化け物同士(※同士で間違っていない)の戦いを、真っ青になりながら見つめる。

 しかしもはや震えが来ないのは、自分がこういうことに慣れてきた証左だった。


 なぜなら俺は。

 あれからゆりあに同伴もしくはアフターの名目で、あやかしスポットを連れ回されているからである。



 どうしてそんなことになったのかというと――事は一ヶ月前に遡る。





  

 ――助手にならない?

 ゆりあは俺にそう誘いを持ち掛けてきた。


 改めて話を聞くと、異形や怪異に対処する組織や個人のことを、一般的に祓い屋と呼ぶらしい。正式には【祓除師ふつじょし】。通称は祓い屋で、国家が定めた呼び方が、祓除師なのだという。

 祓い屋は、一族によっては千年以上続く家業を営み、基本的に勝手知ったる国からの依頼や、華族の血筋のものからの依頼を受ける。そうして収入を得ているらしい。


「前、国家怪異対策委員会は、内閣府外局の秘密国家組織的なものって、説明したでしょ? 祓除師が単独で活動する時の許可を出したり、祓い屋一門を支援したりするのが国怪対。ゆりあはここの許可を受けて単独で活動してるの。S級だから、下っ端くんたちが対処しきれなそうな大きな案件を処理する。もちろん報酬はその分跳ね上がるけど。

 ゆりあはねー、元々は関東有数のでかい一門の出ではあるんだけど〜、かっちりしすぎててゆりあの肌には合わなかったってゆーかぁ」 

「……ゆりあの名刺にもあったけど、その、Sっていうのは」

「そう。S級のこと〜。

 あのね、国怪対では、オカルト的化け物のことは【あやかし】って定義してるの。悪霊、妖怪、異形、具現化した呪いなどなどのおばけちゃんを総称する言葉としてね。

 危険度順にS、特A(ex-A)、A、B、C、D。諸外国でも妖はいるから、ランクはアルファベットで表してるんだって〜。祓除師のランクは、その妖のレベルに対応出来るかってことを現してるんだよ」


――ゆりあの階級はS。

国家公認の祓除師――つまり国でもエリート中のエリートに入るというゴーストバスターであるということらしい。


(強いとは思ってたけど……マジで強かったんだな、ゆりあって)


「でね、S級になると、安全を保障することを条件に、国怪対に所属していない有能な異能者を協力者エスにすることが許されてるの」

「へえ……」

「ね〜! だかられいぴ、ゆりあの助手協力者にならない? ゆりあ、強いけど感知はそこまで得意じゃなくてぇ。れいぴの力借りたいんだよ〜!」


 お願い! 報酬払うし、ゆりあのマネーパワーでれいぴを今月もナンバーワンにするからぁ!

 そう言ってきらきらな爪をした手を合わせるゆりあを、俺は真剣に見て。



「――嫌だが……?」



 真剣に答えた。


「え〜〜〜〜っ! なんでぇ!」

「なんでぇ! じゃねーわ! あんな……人面蜘蛛(小声)見といて金に釣られるほど命捨ててねえわ! 絶・対・無・理!」

「命は捨てなくていいよ!」


 ゆりあにがっしと両手を取られる。

 ピンクのカラコンが真っ直ぐこちらを見ている。

 


「ゆりあがれいぴをぜったい守るから!」


  

「……ェ……、」(トゥンク……)

 

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