地雷系(?)祓い屋、ゆりあ3




繁華街の表通り――日が暮れ、あたりが暗くなったころ。


 出勤前のいつきとあさひは、タピオカドリンクを片手にぶらぶらと表通りを歩いていた。


「あああ~……まじやばい。今月売り上げ20万ないんだけど。ノルマ厳しいかも」

「まじかあさひお前、大丈夫かよ」

「この時間にお前とぶらぶらしてる時点で察して」

「同伴出勤してくれる姫がいないんか」

「うっせ~わ。傷ついたァ~あそこでタバコおごっていつき」

「なんでだよ」


 ぶつぶつ言いながらも、いつきはコンビニに寄り、あさひに煙草を買ってきてやる。――あさひはこういう、いつの間にか人に愛されるというか、人にお願いを聞かせるのに長けていた。


これが愛されキャラってやつか。

そんなことを思いながら、いつきはあさひにタバコを渡し、二人でうす暗い裏路地で煙草を吸う。

思わず「うわー、ヤニ沁みるわ」と漏らすと、あさひがあはは、と笑った。ストレス溜まりすぎだろ、と付け足して。


「……そういやさ~、いつきってなんでホストになったんだっけ」

「あ~? まあ田舎から出たかったのと~、ま俺、実家と縁切れてるから? 夜職就いてもうるさく言うやついねーわけ。あと単純に稼げるかなって思って」

「稼げてんの実際」

「……やまあ悪かねえけど~まだこれからだし!いずれレイヤくんみたくなるし!」

「ははは、でもそっか~……」


不意に。

あさひの声が低く不気味に沈んだ気がして、いつきは思わず同僚の顔を見た。


 ――顔に影を落としたあさひの目に光はなく、

彼はなんとも、気味の悪い、嫌な笑みを浮かべていた。


ゾ、と。

理由もなく、背筋を寒気が駆け上っていく。


「……あさひ?」

「お前って消えても心配するやついないのな」

「え」


 あさひの顔を見て、いつきが目を丸くする。


と、その時だった。


 

「――よ。あさひ、いつき」




「え、あ、レイヤさん!? どうしてこんなとこに」


……間に合ったか。

俺は半ばほっとしながら、驚愕している様子のいつきのまぬけ顔を見て笑う。

ゆりあが、俺の後ろから顔を出して、軽い調子で「やほやほ~」と言って手を振った。


「えっゆりあちゃんと同伴中だったんですか? でもこんな暗い裏路地になんで……」

「いつきこっち来て♡」

「え、え?」


いつきがゆりあに手を引っ張られ、あさひの近くから離される。

いつきは目を白黒させながら、「いいからいいから~!」と言って、ゆりあに引っ張られるまま歩いた。俺とゆりあを見比べるようにしている彼は、相当困惑していることだろう。無理もない。


ゆりあはいつきを俺の後ろに隠すように立たせると、自分は俺の隣に立った。


あさひと対峙するような位置に、だ。


「なになに、なんすかいきなり……」

「――あさひ。ちょっと調べたんだけどさ。颯、ユキヤ、リヒトが消える前、最後に一緒にいたのって全部お前だよな」

「……」

「え? ちょ、レイヤくん、あの、なんのことですか? あさひが……え?」

「――颯は突然出勤してこなくなった前日、あさひ、お前とメシに行っていたんだ。ユキヤもお前と最後に飲みに行ったあと行方がわからない。リヒトはいつきに煙草を頼まれたあと、お前と最後に話してる」


――そう。調べた。

俺もこの辺りの繁華街では顔が通っているほうだし、ゆりあは夜職の店に顔が利くようで、繁華街の監視カメラはすぐに調べられた。


(それに……)



『ねえ、あんたこの写真の男知らない?』

『なんだよ、知らねえよ……』

『ああそう? 成仏したくないんだ? 魂ごと消し飛ばされるのがお望みなら……』

『あっ、そっ、そいつらなら前にあっちにいるの見かけたけどっ!?』


俺は思わず遠い目になりながら回想するが―――ゆりあはこのあたりの地縛霊を脅しつけて情報を得てもいたのだ。


俺も霊感を持って長いが、幽霊から情報を集めるなどと考えたこともなかった。



「……それが?」

「よく考えればお前が来てからだ、失踪者が出始めたのは。颯が店の金に手を付けたうんぬんの噂も辿ってみりゃ出所はお前だった。

……なあお前、三人に何をしたんだ?」

「……」


「ちょっと……マジでいきなり何言い出してるんですか……あさひもなんで言い訳らしい言い訳もしねえんだよ……」


 不穏な空気を漂わせるあさひと俺に、おろおろするいつき。

 そんな空気の中で、ゆりあがあくまで明るい調子で言う。



「消えても誰も騒がなそうなのを狙って食ってたんだよね?」



「は……?」

「――店にでかい借金があるやつは店が騒ぐから除外。実家が太いやつも除外。皆から慕われてるやつも除外。人望があるかどうかは置いといて人気のホストも店が騒ぐから除外」

「……!」

「夜職で失踪は別に珍しいことじゃない。警察も動きにくい。

狩場にちょうどいいからここいらはお前らみたいなのがよく湧くんだよ」


ゆりあが、笑顔のままあさひに一歩近づく。


「――でももっと早く気付くべきだったな。うまく隠れてたよね。臭いを消すのが上手いやつってたまにいるんだ。あたしの失態だ。れいぴがいなかったらいつきは死んでた」

「え……は……!?」

「人に化けてるんだろお前。いい加減観念し――」



「っ! ゆりあ――危ない!」

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