地雷系(?)祓い屋、ゆりあ2


――さて、営業時間である。


早速シャンパンコールがあった。高額な酒の注文があったのである。

従業員ホストがゆりあと俺ののテーブルの周りに集まってくる。


にこにこのゆりあ。

と、

笑顔がやや引き攣っているであろう俺。


「素敵な姫様より! 輝くシャンパン・ロゼ! いただきました!」

「姫様より一言!」

「今日も売上に貢献したのでぇ、れいぴにいっぱい褒めてもらいま~す! よいちょ♡」

「いえーい!!」





 


「――てわけで手伝ってくれるよね? れいぴ」

「……わかったよ。ゆりあの覚悟、受け取った」


シャンコが終わり、従業員たちは各々の姫たちのもとに戻っていき。

俺はいい笑顔のゆりあに、そう言って頷いた。


が。



(受け取った じゃ ねえ~~~~~~!)



内心盛大に頭を抱えていた。


(ロゼ(※めちゃくちゃ高いシャンパン)入れてくれたら手伝ってもいいよ! だなんて言うんじゃなかった~~~~!!!)


俺はのんきに頼んだ酒の瓶を並べて楽しんでいるゆりあを横目で睨みつける。


(ハァ~~~?? なんで入れられるんだよこの女、昨日もシャンパンゴールド入れてたばっかりだろおい!)


意味がわからない。

祓い屋ってそんなに儲かるもんなのか。


「……ゆりあ、マジ無理してない?」

「してないよ~。ゆりあ月収〇〇(ピー)万だから」

「格差社会…………」


(何!?! ゴーストバスターってマジにそんなもうかんの!?)


「まあ母数が少ないし、命がけの仕事だからね」


(んなさらっと言うことじゃないだろ……)



 まあそれはともかく、とゆりあが俺に身を寄せてくる。

姫と身体を密着させることは珍しいことではないが、ゆりあとは珍しい。ゆりあはボディタッチに関してはかなりドライな方だ。多分ほかの姫のように、俺に恋愛感情もない。


なので少し驚いていると、ゆりあが声を低めて聞いてきた。


「消えたホスト、一人目は颯だったよね?」

「……ああ、うん」


どうやら店に聞かれると都合が良くない話なので、こうして密着しているらしい。

得心がいって頷く。


「ユキヤとか、店のお金に手を出して消されたとかいう噂掲示板で見たけど」

「あー……」


まあなくはないかも、というのが正直な俺の感想だった。


(ここのオーナー、ちょっと反社と繋がりありそうだもんな……怖いから触れないけど)


「もともとこういう夜職の店には妖……お化けのことね、が湧きやすいんだけど。嫉妬とか悪意とかいろいろ溜まるから〜」

(やっぱそうなんだあ……)

「でもなんか最近いきなり数が増えてるんだよねぇ」


数が増えて。

確かに俺もそう感じていたけれど、客の立場でそんなところまで見ているのか。


俺は腕にしがみついているゆりあを見た。

もしかして、


「……ゆりあはさ、そういう妖? の監視のためにホスト来てんの?」

「ううんただの趣味」


(おい)


俺の心配を返せ。


「イケメンに貢ぐの好きなんだ~。というか金ありすぎて使い道ないし、国に納めるなられいぴみたいなイケメンに金納めたい♡」

「そっかあ~まじありがとな~(棒)」


この世は不平等だ。

そりゃあ俺だって稼いでますけど。

やはり夜食で稼ぐのと、内閣府外局のエージェントとして稼ぐのとじゃこう、なんか、カッコ良さが違う気がする。


「れいぴは三人の行き先とか心当たりないんだよね?」

「正直……ホストが飛ぶのもそう珍しい話ってわけでもないから、店側が追うならともかく同僚が血眼になって行方探すとかはないな」

「三人の共通点は?」

「それも特に思いつかないな」

「そっか……ゆりあとしては、何らかの条件を満たした三人がどこか妖の作った異界に連れてかれちゃったのかなとか思ったんだけど」


思わず目を剥いた。「は!? 何、そんなことあんの!?」


「うん。異世界エレベーターって都市伝説聞いたことある? ああいうふうに、決まった手順で『儀式』を行うと、おかしな場所に繋がっちゃうことがあるんだ」

「怖すぎなんだが?」

「あは。霊力があったりするとなおさらチャンネルが合いやすいからさ。もしかしたら三人もそういう体質だったのかなって〜」


(……そういう体質、ね)


俺はゆりあをしがみつかせていない方の手で、後頭部をかいて、呟く。「……いや。そういうことはないと思うけど」


「……え?」

「だって俺、颯たちからそういうの感じたことないし」


俺は人間相手でも不思議な気配を感じ取ることもある。

中学生のときには、たまたま見かけた占い師にオーラみたいなものが視えた。インチキ霊媒師と、マジの霊媒師の区別とかもたぶんできる。あの占い師はマジモノだったのだろう。


霊能者というのは少なからず独特の気配を持っているものだ。

俺は今までの人生の経験則でそれを知っている。


「え、うそ、れいぴ霊力の気配もわかるの……?」

「霊力てのが何かまだよくわかんないけどな。あ……でも俺、ゆりあがゴーストバスターだとか全然わかんなかったし、アンテナけっこうガバかも」

「……や……ゆりあは意図して隠してるからわかんなくっても無理ないよ。強い妖だとこっちの気配を悟られるとまずいから」


なるほど、隠すこともできるのか。

だからゆりあからは何も感じなかった――。


「――そっか、れいぴ、ゆりあが一回ちょっぴり力を漏らした時反応してたもんね。感知能力が高いんだ……それも多分ゆりあより……」

「力を漏らす……? あ」


同伴の時、一瞬だったが、背筋がぞわついたことがあった。

それを思い出す。


(あの時か……つか、あれで「ちょっぴり」かよ……)


「……そっか、なんかちょっとわかってきたかも」

「え……?」


「れいぴってさ。今職場に――苦手な人っていない?」

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