霊感ホストと地雷系の姫1
――昔から俺はおかしなものをよく見た。
それはたぶん、妖怪とかお化けとか幽霊とか言われるものだった。
忘れもしない。初めてお化けを見たのは年長さんの時――。
『母さん、電柱のそばに立ってる人、あたまにケガしてるよ? 大丈夫かな?』
『え……どこの電柱? 母さんわかんないや……』
そして中学の時も。
『あははっでさァ〜……(目の前を血だらけの女を追加)ッギャ!?!?』
『どしたん礼』
『……あはは! いや、なんかきもい虫いてさァ〜!』
『は……? え、今そんなんいた?』
『お前は一体何を見たわけ? こっわ』
高校の時など――。
『――は!? 別れるってどういうことだよいきなり!?』
『いやだってなんか……礼あたしの顔見て突然叫ぶことあるし……無理に付き合ってんじゃないのかなって。あたしの顔嫌い?』
『いやお前の顔見て叫んでるのは……(たまにやべえ化け物が張り付いてるからで……)』
『なんでなんも言わないわけ!? ちょっとイケメンだからってあたしのことバカにしてんでしょ!』(※平手の音)
『っテェ!』
(今までこの霊感には、ほんっっ(略)っっとに苦しめられてきた……!)
幼稚園の時はまだよかった。何かとしゃべっていてもイマジナリーフレンドとしゃべっているのかな、かわいいな、と思われる時期だ。
小学校の頃になると自分に見える異形のなにかが、他の人には見えないもので、見えるのは異常なのだと理解し始める。そこで俺は自分の異端さを知らされ、以降はおかしな振る舞いをしないように気をつけはじめた。
――しかし驚いてしまうのは変わらないわけで。
何せお化けちゃんというやつはマジで突発的に目の前にポップしたりするのだ。
中学の時も高校の時もたまに驚いてしまっては、そのたびに周りに「なんだこいつ」みたいな目で見られたものだ。
高校の時は見事に彼女に逃げられた。それも3回。マジでない。
――俺の顔はそこそこいいはずだ。
性格も陽キャのたぐいだと思っているし(決して自称だけの痛い奴ではない)、誰かと付き合っていても浮気だってしなかった。クズ男のヤリチン扱いされたこともあるが、それは誤解なのである。いい奴というほどでもないかもしれないが、少なくともクズではない。みんな見た目に囚われすぎなのだ。ちょっと俺の見た目が田舎にしちゃ派手だったからって。
俺は一途なたちなのだ。好きになったら浮気はしない。
――
俺はちらりとバックヤードを見回す。
ぼろいソファとテーブル、今日の売上成績が書かれたホワイトボードが置かれた、殺風景なバックヤードには――小さい妖怪がそこかしこにいる。
壁の隅には何やら蹲ってブツブツ言っている小男。不気味すぎる。
「はあ……」
(……地元がそこそこ田舎だから、なんか田舎の念? 的なものが溜まって変なのがいるかと思って、東京に出てきたってのに、東京にもいるじゃん!
――つうか東京の方がいるじゃん!!)
俺はよろよろとソファから立ちあがり、壁にがんっと頭を打ち付ける。
涙目だった。もう何も見たくなかった。つらい。
(いや……いや薄々わかってた……。この妖怪とか幽霊とか、負の感情とか欲とかが起きやすいところに湧きやすいんだ……)
東京の、人がいる、科学的で、都会的で、きらびやかな場所。
そこにいけばお化けちゃんには会わないだろう。
高校の時はホストになれるのでは? と言われてきたし、じゃあ金も欲しいし
ホストという職種に予想以上に適正があったらしい俺は、あれよあれよという間にナンバー入り。
そうなれば店は簡単にホストを逃がしてはくれない。ホストクラブのオーナー様の中には
――夜の世界には負の感情が湧きやすく、
それだけにあやかし怪異お化けちゃんをおびき寄せやすいと気づいた時には泥沼に頭まで使ってしまっていたのである。
「ッくっそぉ自分から鬼門に突っ込んでってどうすんの? 馬鹿なの? 死ぬの?」
がんがん頭を壁に叩きつける。もちろん額に瑕がつかない程度に(※顔が商売道具だから)。
「なんで俺は調子こいてナンバーワンなんかになってしまっ――」
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