第14話




片山中学校・2年2組の教室。


**岡田 涼真(おかだ・りょうま)**、14歳。


成績は中の上、スポーツもそこそこ、目立つわけじゃないが、特別暗いわけでもない。


それでも、――**女子にはまるで相手にされなかった。**


誰かが笑っても、自分には話しかけてこない。

誰かが恋バナを始めても、自分の名前は絶対に出てこない。


教室の端。昼休み。

涼真はそっと、前の席の\*\*川口 莉央(かわぐち・りお)\*\*を見ていた。


(かわいいな……優しそうやし、クラスの男子と話すとき、ほんま楽しそうやし)


でも、彼女が自分に視線を向けたことは、今まで一度もなかった。


---


ある日、涼真は教室の掲示板に貼られた「誰と誰が付き合ってるらしい」みたいな匿名メモを見つける。


> 「川口莉央→スポーツできる男子好きらしい」


> 「岡田→誰にも興味もたれてない説ww」


他愛のない落書き。

だが、心の奥に突き刺さった。


涼真は、ひとり校庭のベンチで体育座りしていた。


> 「俺って……なんなんやろ」


> 「誰にも、見てもらえへん人間なんか……」


そのとき――草履の音が近づいた。


「見られぬ者よ。なぜ、己を消す?」


着流し姿の剣豪――**宮本武蔵**が、風の中に立っていた。


「……だって、俺なんか、誰も気にしてへんし」


「されど、そなたは誰かを気にしておる。“気にする者”が“気にされぬ”と嘆くは、実に人の常なり」


「……何が言いたいん?」


「問おう。女子に“見られる”こと、それ即ち、価値なりや?」


涼真は、はっとした。


「……俺は……そう思ってた。

“女子に好かれる=自分に価値がある”って……

でもほんまは、誰かに見てもらわな、自分がある気せえへんねん」


武蔵は静かに木刀を立てた。


「ならば、見せよ。“見られたい自分”ではなく、“本当の己”を。

見られることを恐れずに、見せることを恐れぬ者――その者こそ、いずれ人を惹きつける」


---


それから数日。


涼真は、あいかわらず女子にモテるわけではなかった。

でも、学級新聞に名前を出してコラムを書いたり、苦手だった発表で手を挙げたり、少しずつ“自分”を見せるようになった。


ある日、帰り道で川口莉央がふいに言った。


「……岡田くんって、静かやけど……ちゃんと“話す”とこ、意外と好きかも」


「え?」


「てか、新聞のやつ、おもろかったよ。“昼寝と人間の幸福度の関係”とか(笑)」


「まじで?」


「うん。今度さ、“誰にも相手にされない説”撤回しとくわ」


涼真は、頬がちょっとだけ熱くなった。


---


屋上の夕日。

木刀を手に、武蔵がつぶやく。


「“見られる者”になろうとするほど、人は虚像をまとう。

されど、“見せる覚悟”を持つ者だけが、真に光を放つ」


風が、ふわりと袖を揺らした。


---



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る