第13話 そういうもの

「おお、君か。文句を言うつもりはないが、もう少し早く来てくれなかったのかね?」

「そうしたかったのは山々なんですが、こちらもハンターとして働いてるもんで。」


わたしはこれでいいですか?と黒セルリウムを差し出した。もう既に少し気持ち悪くなっていた。


「おお・・・こんなに集めるとは・・・これなら腕が切られても直せるな。」

「大きいの倒せばそれくらい出てきますよ。」


セルリアンは少し待っていてくれ。というと樫の扉を閉めた。暖房をずっと炊いてた部屋を換気で開けた時の解放感で体が軽くなった。何回か吸えば慣れるってものでもないみたいだ。なんでカンザシちゃんは平気だったんだろう。


「待たせたね。入り給え。」


もう気持ち悪い感じはなかった。


前回は味わえなかった紅茶を今回は味わうことができた。別に特段美味しいとかそういうわけではない。ただの紅茶だ。まぁ、別に紅茶に詳しいわけではないからもしかしたら美味しいやつなのかもしれない。


「セルリアンって味覚あるんですね。」

向こうはポカーンとした表情をしていた。

「いや・・・紅茶飲んでるってことは、味覚あるのかなぁーって。」


「普通のセルリアンにはないよ。"私達"だからあるんだ。」

「他の感覚も・・・」

「そうだね。普通のセルリアンに感覚はない。」


「ズルくないですか?」


「え?」


「いや・・・失礼しました。」


そいつは笑った。心のそこから妙なものを見たかのように笑った。

「なにか変な事言いました?」

「いやw。そうか、ズルいかぁ。確かに。」

「認めるんだ。」



「だがな。これは覚えておいてほしい。全てのセルリアンはもう己で輝きを生み出すことは可能なのだよ。」

「嘘。」

「どうしてだ?」


何故輝きを自ら生み出せるならフレンズを襲ってまで輝きを確保しなければならない?セルリアンだってフレンズと戦うことはノーリスクではないだろうに。


「輝きを自分で作れるなら、わざわざ戦う必要がないでしょう。」

「どうかな?パークは狭い。セルリアンとフレンズが共生するには土地が足らないんじゃないか?」

「そういう理由なんですか?」


いや、これは「私」の持論だがね。


「じゃ、本当の所はどうなんですか?」

「セルリアンは基本王と全ての感覚を共有している。王が奪えと言ってるからじゃないか?」


セルリアンの王。話には聞いた事がある。たしか戦術教本の端のコラムに書いてあった気がする。本当にいるとは。

「てか。あなたはセルリアンなのに女王に従わないのですか。」

「それについては知らないな。産まれてきた時からこの通りさ。」


そういうものなのか。謎は尽きないが、これ以上詮索しても何も出てこなそうだった。


「それより、カンザシちゃん・・・っ!カンザシフウチョウは今日は来ていないの?」

「彼女か・・・彼女が普段どういう暮らしをしているのか。私にはわからないのだ。何か知っているか?」

「・・・てっきり普段からここに住んでいるのかと。」


とんでもない。私からしても彼女は不思議な存在だよ。悪い子ではないんだろうけどね。そうセルリアンはどこか遠くを見ていった。


謎多きセルリアンにすら謎と見られるフレンズ。パークは思ったより広いんじゃないか。


「そもそも彼女とはいつ出会ったの?」

セルリアンは何も言わなかった。紅茶の色がでなくなったので、茶器を仕舞いに私に背を向けた。


「彼女はな。私が始めて気づいた時、隣にいたんだ。」



そう言うと部屋を辞していった。



「思ったより長居してしまった。」

「楽しめたなら、何よりだね。」


わたしは彼に征討隊が付近に近づいているから気をつけるように伝えた。


「君はそのメンバーではないのかい?ハンターの中でもかなりの上澄みなのだろう?」


「・・・カンザシフウチョウが来たら、わたしは仕事でセントラルに戻った。今までありがとうって伝えといてくれないかしら。」


「自分で言えばよかろうに。」


「仕事がら。すぐ戻らないといけないの。」



「そういうものか。」


「そういうもの」



洞窟からの帰り道、なにか視線を感じたが、特になにか起こるわけではなかった。





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