第12話 ただ寒い

ティラコスミルスの振り下ろした白刃は黒く象のような巨体のセルリアンを容易に2つに溶断させたあと、近くに生えていた木もついでのように叩き割った。


セルリアンは切り離された上半身を捨て、残した下半身だけで逃げ出した。

これは急所である核は避けたからである。核を破壊してしまうとセルリウムそのものも急速に分解され、今回の目的でありる黒セルリウムの回収は叶わない。ティラコスミルスは残された上半身にバケツほどの大きさの瓶を突っ込んで瓶を内側から黒くした。急ぎで蓋を閉めると、残骸に脇目も振らず現場から立ち去った。


昨日、ティラコスミルスは当面の任務を返上した。別に期待していたわけではなかったが、特に労いの言葉も、お叱りの言葉もなかった。無論征討隊とは指揮系統が異なるから関わることはなかった。ただダーウィンフィンチとは廊下で出会った際に気まずそうに挨拶をしてきた。それっきりであった。


ハンターの拠点を離れるとき、お別れの挨拶を告げに来たのはシヴァテリウムだけだった。結局、このちほーでフレンズに助けを求められたのはシヴァテリウムが書類仕事を抱えすぎて終わらないとか何とか言ってたので手伝っただけであった。


対してセルリアンは傷を治すために黒セルリアンを倒してほしいという。なんなんだ。わたしはセルリアンの討伐でこちらに派遣されたはずである。なのになぜセルリアンの手助けをしてるのだろうか・・・。


ハンターのみんなよりセルリアンの方に頼られている、変な話だ。でも、自分を頼ってくれる存在がいるというだけで少し救われるような気がした。


「裏切れなんて言われたら、本当に裏切っちゃうかもな〜。」



件の洞窟の入口に来ると、前回の触手つきがまたわたしにお辞儀した。以前はナイフで斬りかかろうとしたが、今見るとなかなかどうして可愛らしい。敵として見なければもしやセルリアンは可愛いかもしれない。


「あなたのご主人様に用があるんだけど、いいかな?」


触手つきは触手を洞窟の奥に指し示した。


「ありがとね。」


洞窟は前回来たときから一切が変化していないように見えた。変化があるとすれば、この洞窟に適応したわたしだろう。


扉の前に来た。


厚い樫の木の扉。セルリアンが住んでいるとは思えないほどの温かみを感じる扉だった。全て鉄やコンクリートのハンターの拠点の方がよっぽど無機質でセルリアン的だった。


それに関してはハンターもそうであろう。セルリアンを討伐するためなら命をものとしない。それじゃセルリアンの命がないのか命を命と思っていないのと変わらないであろう。


彼らと私達の違いはただ透けているか透けていないか。それだけであるような気がする。


いやいやいや。この考えは危険だ。よくない。


わたしは頭を振った。もうこの事を考えるのはやめよう。思案を中断するには新しい事象を起こすのが有効である。


わたしは思い切って扉を叩いた。


洞窟に硬い音が反響して響いた。








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