第10話 組織の犬

とりあえず、午前の書類仕事を片付けると暇になってしまった。


当初はもっと時間をかけて処理するつもりだったが、殊の外大したことがなかった。肩透かしを食らった感じだ。


わたしは体を大きく伸ばすとカーテンが淡く揺れている窓の先を眺めた。あの雲の先に、きっと大編隊が行軍しているのだろう。


先日、セントラルから「新型セルリアン征討隊」がこのちほーに派遣されることが発表された。そして派遣が発表されたタイミングなどを色々考慮した結果、恐らくここに到着するのは今日であろう。というのがティラコスミルスの予測であった。これは、今までの経験則から予測したものであり、かなり正確であった。


征討隊はセントラルハンターの中でも特に優秀なハンターを選りすぐったと歌われる部隊であり、作戦内容、地形などで、ミッション内容などによって毎回メンバーは選び直されるが征討隊に選ばれたハンターは出世は確実であり、現在のセントラルハンター高官は皆征討隊に選ばれたことがあるメンバーである。


つまり、征討隊に選ばれれば今までのように弱いと揶揄されることはなくなる、ということになる。


わたしは過去に征討隊に見習いとして参加したことがあったが、あれはあくまで「見習い」であり、運良く参加権を勝ち取れたと言われればそれまでである。


勝算はある。先例として、征討隊が派遣される地域で活動しているセントラルハンターがいる場合、そのハンターも隊に組み込まれる場合がほとんどなのである。その地域の地理に詳しければなおさらである。


わたしにはカンザシちゃんから教わった山奥の方の地形の知識がある。それにこのちほーは深い森とそれに隣接する草原、また奥には海があり、ここでの戦闘は全環境に対応したスキルが必要になる。その点わたしは今まで場所を選ばずに戦闘をこなしてきた実績がある。


これでみんなに認めてもらえる!わたしは上品とはいえない笑いを浮かべていた。



征討隊が到着したのは、わたしがいつも通り昼食を取っているときだった。ハンター見習いの子が慌てて接待担当のハンターを呼びに来たところでわたしは征討隊の到来を知ったというわけだ。


取り敢えず、ご飯を平らげる。おかわりは誰か呼びに来たときに「おかわり食ってるからいけない」とは言えないので、諦めることにした。


食堂を出たあと、わたしはまた仕事部屋に戻った。午後から征討隊の話があるだろうから、午前のうちに仕事を終わらせていた。あとは征討隊隊長から辞令を受け取るだけだ。おそらく隊長はこの事件の大きさからメガネカイマン先輩だろう。



・・・おかしい・・・もう隊は活動を始めていてもおかしくない時間だ・・・なのにいつまでたっても声がかからない。もしやわたしはメガネカイマンからも弱いと思われているのではないだろうか・・・いや!そんなことはあるまい。わたしの出世を推薦してくれたのは常にあの先輩だった。その先輩がまさか・・・となると隊長を任じられたハンターは別人なのではないか・・・だとしたら誰だ?


頭が混乱する、あぁ・・・そもそも征討隊に選ばれないとしても今後の処遇は伝えるべきだろう!隊長職のやつは職務怠慢である。


「ティラコスミルスさん?で、合ってますか?」


わたしは怒りのあまりわたしに近づいているフレンズに気づけなかった。戦地だったら死んでたな。それはさておきわたしは後ろから近づいてきたフレンズを見た。セントラルのハンター記章をつけているが、おそらく事務官なのだろう。ハンターの顔は皆覚えているつもりである。


「はい。そうですけど・・・」

「征討隊長がお呼びです。執務室までお願いします。」


わたしはぱぁと顔が明るくなるのが自分でもわかった。

「わたしも征討隊に入れるんですね!」

わたしはつい変な事を口走ってしまった。しかし、向こうは一切顔色、表情を変えず冷たく答えた。


「あなたの処遇は隊長から伝えられます。」

なにか不気味な感じがするフレンズだ。カイマン先輩はこういうフレンズを自分の下に置くイメージがわかないから恐らく隊長ではなさそうだ。こういうフレンズを好むのは・・・

頭の中にサーベルタイガー姉さんが浮かんできた。まさかね・・・姉さんはセントラルを動かないだろう。

わたしはなにか不吉な予感を感じ取っていたが、それでも悪いことはないだろう。と信じ切っていた。



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