第8話 歪み始めて
洞窟からハンターの詰め所に戻る頃には、もう日は朱く西に傾き始めていた。カンザシフウチョウは私を深い森の入口まで案内した後は、また森に引き返していってしまっていた。
もう洞窟の中で感じた気持ち悪さは感じていなかったが、何か疲労とは異なる憑いたような重さを体全体に感じていた。
考えてみれば、何もかにも不思議な話である。そもそも、あれだけの調度をどうやって森の奥まで運んだのであろう。材質がセルリウムであったら、コピーで作れない事もないが、「あれ」は完全に樫にガラスだった。ガラスを精製できそうな場所は深い森にはないであろうし、そもそもこのちほーには樫は生えていない。だとすれば、どこからか運んできた・・・ということになるんだろうけどなぁ・・・。色々謎だ。それより一番謎なのは、よく考えてみるとカンザシちゃんがあの空間で一切気持ち悪くなっている素振りがなかったのが一番よくわからない。あのセルリアンも「気持ち悪くなるのが普通」って言ってたよね、確か。となるとカンザシちゃんはわたし達と何処か違うのかな?うーん・・・でも見てくれはただのフレンズだし、入り浸っていると慣れるんだろうか?
止めよう。今そんなことを考えてもしょうがない。後であのセルリアンにでも聞けばいい話だし。答えてくれないかもだけど。どうせ、黒セルリアンのセルリウムを届けに行く際にまた会うのだ。
いや・・・届けるべきか?アレをわたしが助けなければいけない理由はないはずだ。そもそもアレがわたしの味方である保証もない。でもなぁ・・・助けてあげないとカンザシちゃんが可哀想だし・・・う〜ん。
「悩みごと?」
っ!気づけばオオウミガラスの姉さんが隣を歩いてた。
「えっ、いつからいたの?」
「ついさっきから。凄い真剣な表情で考えてたから、転びそうで心配したんですよ。」
「あはは、、、それは気をつけなくちゃなぁ。」
ティラミスはわざとらしく頭を掻いてみせた。しかしオオウミガラスはその冗談を一切受け取ろうとはしなかった。それどころか、先程の発言で気を悪くしたようだった。
「ねぇ・・・今日一日どこで、何してたのかしら?」
その言には明確に批難する意図が感じられた。
「え?・・・パトロールだよ?今日はさ、ちょっと気になって森の深い方まで行ってみたんだ。」
「ねぇ、今日ね、このちほーで新型のセルリアンが出たって、緊急の集会があったんだよ。」
だから、機嫌が悪いのか?でもそれは仕方がない事じゃないのか?
「・・・それは・・・ごめんなさい。でも!わたしだって、パトロールしてなかったら、・・・」
言っても仕方のない話か・・・言いかけて言うのを止めた。姉さんはわたしがごもってしまったのを見て、喋り始めた。
「別に、緊急の集会に参加しなかったことは怒ってないわ。」
「集会の内容は後で他のハンターさんに聞くからさ、」
「そうじゃなくて!」
じゃあ、なんでおこってるんだよ!
「そもそも、最近このちほーはセルリアンが増えてるのよ!」
そんなの、知ってるよ!だからこそパトロールを・・・
「あなたは弱いんだから、パトロールするときはバスなり、他のハンターを連れて行くなりしなさいよ。」
・・・「わたし」が弱い?・・・
ハンターになってから今までの自分の姿が目に浮かんだ。確かに苦戦するときは多かったけど、ちゃんと任務は達成してきたはずだ。少なくともワンサイドゲームでやられっぱなしってことはない、言い切ってもいい。
「・・・わたしが、弱いって?」
オオウミガラスはわたしを叱りつけるように言った。
「そうよ。サーベルタイガー隊長も"あの子は半人前だから、支えてあげてね"って言って私をここに送り出したのよ。」
その後、セントラルの子はみんなあなたを心配してるだの、うちのマスコットがいなくなったら・・・云々言っていたが、もうどうでも良くなっていた。
わたしが弱いとか半人前とか言われなくちゃならないのか。昔からそうだった、ハンターを始めた頃はもう隊長をやってた姉と比べられ、今になっても姉の七光りとか皮肉られる。セルリアンが隊長の妹だからって忖度してくれると思っているのか?
ハンターの詰め所が夕陽に逆光してシルエットだけ写っていた。わたしは泣かなかった。もう慣れたことだ。こういうのはわたしが我慢すれば解決する・・・。どれだけ頑張ってセルリアンを倒しても「あの姉あってなんとやら」と思われるのももう慣れた。
ただ・・・
ただ、今日はちょっと疲れてるだけだ。それだけ
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