第7話 矛盾の塊

「ハイればわかるの」


扉は厚い樫の重いもので、カンザシちゃんは開けるのすら一苦労なようだった。扉はゆっくり開いていく。わたしは扉の隙間から部屋を覗いて、驚きのあまり呼吸を忘れた。


 その部屋はまるでわたし達が住んでる部屋と同じだった。天井に照明が釣られていて、真ん中に机、脇にベッド、壁沿いには調度が置かれていた。こんな山奥に何故こんなものが・・・。しかし、わたしが呼吸を忘れたのはそれが原因ではなかった。


セルリアンーそれの多くは生物を模ったモノはいない。ましてやフレンズの姿を模した「者」は・・・

しかし、それは明確にわたし達を模していた。皮膚や服はセルリアンのガラス状の物体だったが、それ以外は、完全にフレンズとしか呼べない姿だった。


「嘘・・・。」

急に気持ちが悪くなって吐き気がした。体がまるでそれを拒絶するようだ。


「どうしたの?」

カンザシちゃんはこの感覚はないのだろうか?彼女は平然としている。


「ショウカイするの、このセルリアンがここのリーダーなの」


リーダーと紹介されたそれは机から立ち上がってこちらに向かってきた。わたしは鞘からナイフを引き抜こうとしていたが、気持ち悪さでそれどころではなかった。まるで天地がひっくり返っているように思えた。


それはわたしの前に来ると、わたしに手を差し伸べ、言った。

「君を待ってたよ。」


わたしはカンザシちゃんの肩を借り、なんとか立ち上がって椅子に腰掛けた。それは、調度からカップとソーサーを取り出し、机に置いた。

「ダイジョウブなの?」

「ぁぅ゛・・・わたしなら、大丈夫だから、」

それが口を開いた。

「彼女は、洞窟の籠もった空気に慣れてないだけだから、大丈夫。」

セルリアンは聞いた事のない声をしている。フレンズより大分低い音域。かつて映像で見た「男」がこんな感じだったような気がする。


「それより、カンザシフウチョウ。お茶を入れて来てくれないかい?わたしのは良いから。」

「わかったの。」


カンザシちゃんはさっきまで来た道を走って戻っていった。


「彼女には悪いけど、今は君と二人で話がしたい。良いかな?」

わたしはやっとの思いで頷いた。


「気持ちが悪いだろう?ここは今セルリウムが充満しているからね。気持ちが悪くて当然なんだ。」

わたしはセルリアンを目をかっ開いて観察する。よく見ると、腰の一部分だけ、色が異なっている部位がある。どう見てもそれは核であった。


「流石ハンター。いい目をしてるね。」

どうやらわたしの視線の先に気付いたらしい。

「そう、ここをセルリウムで充満させたのは核が隠せなくなっているからなんだ。ま、いわば応急処置としてこの部屋そのものを私にした感じだね。」


「フレンズ・・・ハンターに・・・やられたんですか?」

「いや、これはカンザシフウチョウと散歩しているときに彼女を庇ってできたものだ。」


セルリアンはセルリアンを襲わないのが今までの道理だ。仮にセルリアンが戦いに割って入っても、割って入ったセルリアンに攻撃することはなかったのではなかったのか?


「あなたは、普通のセルリアンと違う・・・」

「そうだ。私達が、だがね。」

彼は興奮ぎみに立ち上がっていった。

「私達、ここにいるセルリアンは輝きを自分で生み出せる!つまり生きてるんだ!」


生きてるセルリアン・・・。

「矛盾の塊だ、そんなの。」

「そのとおりだ。この世界はセルリアンが命を持つ事を快く思っていない。」


私達はフレンズのみならず同族のセルリアンにすら襲われるのだ、と語った。


「しかし、わざわざここまで来てくれた君ならわかるのではないか?私達の持つ可能性をね。」


彼は私に手を差し伸べた。私は震える手で強く握り返した。今までで最も力強いセルリアンだった。


—セルリアンとフレンズが肩を並べるジャパリパーク—


「次会うときはこのセルリウムをなんとかしたいものだね。」

「でも濃度を下げたら・・・」

彼は茶目っ気たっぷりに言った。

「そうだな。黒セルリアンのセルリウムがあれば、傷口を塞げるんだが・・・わたしじゃあれを倒せないからな。」

しかし目はわたしに襲いかかるセルリアンと同じ目をしていた。


「おマたせしちゃったの。」

カンザシちゃんが戻って来たらしい。自分はもう意識が朦朧としてたらしい。

「カンザシフウチョウ、この子はもう体調が優れないから、今日は帰してあげたほうが良い。なあに、お茶は私が頂くよ。」


わたしは気付いたら洞窟の外に立ち尽くしていた。




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