第6話 洞窟のモノ

わたしは昔から頼まれると断れない「たち」だった。

そもそも大抵の厄介事は姉さんがなんとかしてしまうので、わたしはいつもテキパキと仕事を片付ける姉さんを遠巻きに眺めるだけだった。だから滅多にわたしは人に頼られないのである。それはセントラルハンターとなった今でも続いてると思う。何かと「妹だから」という理由で大変な仕事には連れて行ってくれないのだ。


だからこそ、だからこそ「わたし」に頼ってくる人は珍しいからよほど困っているのだろう・・・となり断れないのである。頼られて嬉しい、という事もあるけど。


ジャパリバスはダーウィンが乗って行ってしまったという。しょうがないから歩いて行くことにした。


「ごめんね〜。ほんとはバスで行こうと思ったんだけどさ、」


自分のやや前をふわりふわりと軽々しい足取りで進んでいく黒い鳥ーカンザシフウチョウはあまり気にしてはいなそうだった。

「どうせモリのオクにバスはノッてイケないから・・・」


カンザシちゃん(わたしが勝手に脳内で呼んでる)はまるで踊るようにわたしの半歩先を歩いている。このちほーのハンター達に彼女の事を聞いたら、

「普段どこにいるか知らないし・・・踊ってる所以外見たこと無いし・・・なんか不気味な子だよね。」

軒並みこう返ってきた。このちほーの中でも浮いてる存在らしい。


だからこそ、ハンターの中でもやや浮いてるわたしを頼ってきたのだろう・・・。それなのに断れないわたしって・・・


「ここからフカいモリにハイっていくの」


目の前には壁の様に立ちはだかる木や蔦、茎がいやに太い草の間に明らかにフレンズではなく野生のけものが通る用のけもの道が一本通っていた。

「えっ!?ここ通るの?」

「イチバンの近道なの」


というと押し通るようにカンザシちゃんは森に踏み込んでいった。そりゃそんな山奥に住んでいれば、普段は見かけないよね。


「というかさ。その悪くないセルリアンと、いつ出会ったの?」


ふわりと宙に飛ぶとこちらに向き直って答えた。

「大体3ネンくらいマエのコトなの。セルリアンにオソわれたトキ、カバってくれたの」


確かに普通じゃしない行動ではある・・・しかし、セルリアンの行動原理がわからない以上、善意によるものとは完全に信じられなかったけど・・・。

 でもカンザシちゃんはこういったら失礼だけど、自分で自分の身を守れるような力は無さそうだし、こんな誰も助けに来れないような山奥で、誰の助けも得ずに生活してるよりは、セルリアンからの助けを得てる方が納得はできる・・・。

 それに、彼女が嘘をついてるようには思えなかった。これは自分の人を見る目がそ言っているだけだったけど。


などと色々考えながら山奥に進んでいくと、けもの道を阻む大きな岩に突き当たった。

「ここなの」

カンザシちゃんは、岩の下を示した。岩の下にはフレンズ一人通れるくらいの穴が通っている。


(さっきから!どうしてこんなスレスレの道ばっかり!)


入る決心ができずにアタフタしていると、穴の中から触覚つきが這い出てきた。こちらの匂いを察したのだろうか。


わたしは鞘からナイフを引き抜いた。白刃が薄暗い森の淡い光に照らされて空気が震えた。


「ヤメて!」

カンザシフウチョウはわたしからセルリアンをかばう様に私の前で手を広げた。

セルリアンは彼女の後ろをゆうゆうと飛んでいる。・・・わたしは仕方なく淡い光を鞘に戻した。


セルリアンはわたしに向き直ると、触覚を重ね、まるでお辞儀をするかのように頭だけ下げた。



洞窟の中は意外と広く、2〜3人が横並びで歩く事はできそうなくらいだった。セルリアンが各所でウヨウヨしていたが、みな例のセルリアンのようにお辞儀をしてきた。これなら敵意が無いと思っても可笑しくは無いな、とも思った。


「ちょっと、トまるの。」

わたしは言われた通り足を止めた。目の前には扉があるようで、カンザシちゃんは手探りでドアノブを探しているようだった。


「この先には、何があるの?」


彼女は答えた。

「ハイればわかるの」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る