第5話 セントラル

パークセントラル ジャパリパークの中央に位置する「ちほー」の名前であり、ジャパリパーク内において、最もフレンズが多い場所でもあった。そんなセントラルの更に真ん中、パークの中央の中央にセントラルハンターの詰め所がある。


 ダーウィンフィンチは詰め所のガレージにバスを停めた。ガレージには何台もジャパリバスが横一列に停車させられていて、薄暗さと相まってやや不気味に感じられた。


「あら、思いの外早い帰りでしたね。もっとゆっくりされても問題はなかったのに。」

ガレージの奥、施設の明かりが漏れている所から大きい声が聞こえた。


「急用ができたんです。隊長の所まで案内してもらえますか?メガネの副隊長さん。」


ダーウィンフィンチは鍵に指を通してくるくる一回転させた後、メガネカイマンに投げた。カイマンは鍵を人差し指に通して取ったあと、ジャケットのポケットに滑り込ませた。

「鍵を返すにしても、もっと丁重に扱っていただけません?」

「最悪壊れたのなら、私が直しますか。」


カイマンは眉間にシワを寄せた。空気の振動が鼓膜を刺激する。

「そんなに自信がお有りなら!ここにある動かないジャパリバス、全部直してくださいな。」


ガレージから隊長室までは、あまり距離が置かれていない。これは有事に隊長がすぐ前線に出るための配慮である。

セントラルハンターのリーダー、サーベルタイガーは政務机に腰をかけ、部屋にアポもなく入ってきた二人の闖入者を眺めた。しかも一人はまだちほーに派遣されているべきはずのフレンズである。


「ダーウィンフィンチ?あなた向こうでの仕事は終わったの?」


フィンチの額から油汗が垂れた。隊長は常に穏やかであるはずなのに、どうしてか凄まじい威圧を感じる所がある。こういう時は特にだ。

「隊長。どうやら報告したい事があって、急ぎ戻ってきたようです。」


副隊長は淡々と隊長に報告した。このフレンズは隊長の威圧を感じないのだろうか・・・

「フィンチ、報告お願いしても?」

「はい。新型のセルリアンが確認されました。」

サーベルタイガーは表情を一切変えなかった。

「新型?」

「新型!?どういうセルリアンでした?」

ダーウィンフィンチは自分がまるで怒られているようかに思えた。

「何と言いますか・・・こう・・・イヌやオオカミ・・・あ、フレンズではなく野生の方のこう・・・」

「つまり、4足。イヌ科の動物のような姿をしていた。という事ですね。」


隊長はやはり表情を変えなかった。ただし、口は開いた。

「そのセルリアン、どれくらいの脅威になりえそうかしら?」

「・・・現地の手練れが一匹相手に苦戦を強いられていましたから、恐らく相当・・・強いかと。」


隊長は天井を見上げていた。何か思案しているのかも知れかった。

「隊長・・・どうしますか?」

「調査の為の部隊は派遣した方が良さそうね。」


調査隊を出す。つまりハンターはこの事態を大事と認めた瞬間であった。

「では!私が指揮を取ります!」

副隊長は勢い良く挙手をして立ち上がった。メガネが窓からの光で輝いているように思えた。

「駄目。メガネカイマンはハンターの中でセントラルの地形に一番詳しいのだから、こっちを守るべきね。」


副隊長は萎びた青菜の様になってしまった。

「前線指揮はわたしが取る。それで良いかな?」

「隊長自ら、指揮を取るんですか!?」


前代未聞の事態である。隊長、顔色は一切変えない癖に本当に大事と考えているようだ。

「メガネカイマン。わたしは今日の夜までには調査隊を派遣したい・・・。」

「わかりました。ハンターのリストアップと招集、あとフレンズ分のジャパリバスの整備、済ませておきます。」


助かるよ。隊長は椅子を半回転させて立ち上がりながら答えた。

「それと、ティラコスミルスについてなんだけど・・・」


2人はポカーンとでも言うべき顔になった。何故今彼女が出てくるのだろうか?

「彼女が・・・どうかしました?」


サーベルタイガーは隊長室のドアノブに手を掛けた。


「今回のメンバーから外しておく様に。」

「ちょっと待ってください!彼女はセントラルハンターの中でも有数の実力者ですよ!それに現場で今活動していますし!何故そのようなことを?」


ダーウィンフィンチは反射で動いてしまった事を後悔した。でも、彼女は絶対に調査隊に居た方が良い。それは確信していた。


「これは隊長命令だから、よろしくね。」


ドアは非常にも閉じた。この会議から7時間後、調査隊は正式に発足した。無論、ティラコスミルスの名は連なっていなかった。


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