第4話 セルリアンとフレンズ

「あの!セルリアンをタスけてホしいの!」


何を言ってるんだ?この子は?わたしはしげしげと彼女を眺めた。わたしは一瞬「輝き」を奪われているのではと推測したが、こちらを覗く青い瞳はまるで山火事のように煌めいていた。ん、待てよ。彼女はどこか言葉がたどたどしい感じがする。もしや・・・


「あのさ・・・セルリアンから救ってほしい、とかじゃなくて?」


彼女は首をブンブン振った。


「ねぇ、君。名前教えてもらっても良い?」

「カンザシフウチョウ・・・なの」

「へぇ、カンザシちゃん、って呼んで良い?」

「・・・ベツにモンダイないの」


言われた事にはしっかり答えられる。と・・・今までも人型のセルリアンは見た事があるけど、しっかりと会話できる個体はいなかったはず・・・いや、まさか。そんな事あるはずないよね。だってどう見たって黒い羽毛はセルリアンのガラス質の表皮ではないもの。


「ねぇ、わたしの仕事はセルリアンを退治する事だよ。だからさ・・・」


ものすごい悲しそうな目でこちらを眺めてくる。さっきの輝いていた目は今には悲しそうな自分が写っている。


「タオしてきたのは・・・ワルいセルリアンだったからでしょ」

「悪くないセルリアンなんて、見たことないよ。」

「ワルくないセルリアンだっているもん!ワタシセルリアンとトモダチだもん!」


セルリアンと友達?そんな事があるのか?でも今までのセルリアンであれば即座に襲って来るだろうから友達も何も無いはずだ・・・となると新種?油断させてから輝きを奪うとかか?


何にせよわからない事が多すぎる。こうなったら実物を拝むしかなさそうだ。


「ところでさ、セルリアンを助けるって言ってたよね?」

「うん」

「こう?具体的にわたしは何をすればいいの?」


するとカンザシフウチョウの目から涙がポロポロと流れ出した。そんな怖い言い方はしてないはずなんだけど。


「うう・・・ワタシがぁ・・・ワタシのセイで・・・シんじゃうの!」


ティラコスミルスの滞在しているちほーの北西側、海と深い森の間はフレンズの腰の高さ程の草が広がる草原地帯となっていた。また、森の奥で発生したセルリアンがこちらに流れてくるのでセルリアン大量発生区域として事情がない限りフレンズも避けて通る区域である。

「うう・・・数が、多いよ!」


シヴァテリウムは三又槍を斜めに振り回した。すると草原の草が刈り取られるのと同時に槍に直撃した2,3体のセルリアンが弾けた。

 腰の丈ほどある草がセルリアンを隠して戦いづらい。彼女の周りは戦いで草の丈も多少短くなってはいたが、どれだけ敵がいるかわからない。その恐怖が彼女を消耗させていた。


「ダーウィンフィンチ〜!早くしてよ〜。」


彼女達に草原にフレンズらしき人影を見た。もしかしたらなにかあるかもしれない。と鳥のフレンズから通報を受けたのはもう大分前のことであった。普通のフレンズであれば、こんな所には近寄らない。しかし、新しく誕生するフレンズであれば、誕生する場所は選べないのである。そこで2人が派遣された訳だった。


ダーウィンフィンチは今、上空からフレンズを探しているはずである。シヴァテリウムは槍を下から上に振り上げた。足元に絡みつこうとしていたゾウリムシが高く飛んで動かなくなった。


「なに?なにかあるの?」


彼女は混乱した。急にセルリアンが引いていなくなっていくのである。なにかおかしい。セルリアンが格好の餌を逃すなんて、そんな事があるはずが・・・。



彼女が槍の石突を地面に置いた刹那。引いていくセルリアンの中から一匹のセルリアンが躍り出た。そのセルリアンはまるで狼のような形相をしていた。


狼は彼女の振るった槍を高く飛ぶ事でやり過ごした。


「まずい!」


狼は彼女の手元に飛び込んでくる。彼女は咄嗟に槍を遠くに投げてしまっていた。

武器がなくなったシヴァテリウムは後ろに後ずさった。狼は姿勢をかがめてこちらの様子を伺っている。

「こ、来ないで!」


シヴァテリウムは腰にマウントしている鼓のようなものを構えた。本人も使い方はわかっていなかったが、何も持っていない事が彼女には耐えられなかった。


狼は宙に跳ねた。草原に一つ黒黒とした影ができた。


刹那。黒黒した陰を閃光が貫いた。ダーウィンフィンチの拳銃だった。


「大丈夫だった?怪我は無いみたいだけど。」

「うう・・・怖かったよぅ」

ダーウィンフィンチは槍の上に降り立つと槍を手渡した。シヴァは槍に抱きついていた。

「通報されたフレンズ。いなかったんだけど。」

「え?・・・もしかして・・・」

「いや、草の倒れ具合的にも元から誤報だと思うよ。」

「そうなの?」

そうだよ。と言うとシヴァは地面にへたりこんでしまった。

「それより、あんなセルリアン、見たこと無いよね?」

「うん・・・初めて見たよ。私」


ダーウィンフィンチは空を見上げた。雲一つない快晴の空。しかし気分は晴れなかった。


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