第3話 緩やかな序曲

・・・お前は何者だ?

またティラコスミルスは暗いやみの中に居た。またどこからか声が聞こえる。

「わたしは!サーベルタイガーの妹で!セントラルハンターだ!何かあるか!?」

自分の声が思ったより響く。その声は反響してどこかに飛び去っていった。

「それは、お前ではない。」

ふと、眼の前が凄まじく明るくなった。眩しいなんて物ではない。ほとんど目が見えない。


眼前には誰かが立っていた。しかし目眩ましのせいでぼんやりとしか写っていなかった。


「んっ・・・ふぅ・・・」

ティラミスはベットの上で包帯をぐるぐるに巻かれ、まるで絵本で見た怪物の様な姿になった自分を確認した。

「凄い心配したんですよ!本当に!もう!」

 

 どうやらオオウミガラスが「つきっきり」で看護していてくれたらしい。

「セントラルで倒れたって聞いた時、本当に眼の前が真っ暗になったんですよ!!!」

オオウミガラスがわたしに抗議してくる。

「いや〜・・・ごめんって!だって相手牙付きだよ。そりゃあ、苦戦もしますって。」

オオウミガラスはほっぺを膨らますと仁王立ちでこちらを睨んできた。あ、これは面倒臭くなりそうだ・・・

「もう!お姉さんが心配してあげてるってのに!なんでそういう事言うんですか!?」

 

姉さんがわたしに向かって飛び乗ってくる。いやいやいや!わたし一応けが人だよ!

「そんなの知りません!。もう姉さんは怒りましたからね!」

痛い!痛い!痛いって!お姉ちゃん。

「ギューするならもっとソフトにやってよ〜!」

姉さんの毛皮はすべすべで冷たくて気持ちがいいのは確かだ。・・・でも傷口に擦れると痛いんだよぅ!

「ふふふ・・・もう無茶はやめてくださいね。本当はもっと無傷で勝てたんでしょう?」

「え?」


姉さんはようやく離してくれた。傷口が赤くなってるよ・・・もう。

「え?本当は無傷で勝てたって・・・?」

「はい。そうでしょう?」

姉さんがキョトンとした目で見てくる。

「わかりますよ。攻撃を避けると周りが被害をくらう。だったら自分で受ける。そういう事でしょう?」

「・・・そうだよ。だって・・・」

「ティラミ?」


姉さんがまたハグしてきた。さっきの荒々しいのと比べて凄い優しいハグ。毛皮も心なしか凄い温かい気がしてきた。

「ティラミ。ハンターはみんなを守るのが仕事でですよ。自分だって、守らなくちゃ。ね。」

「うん。・・・」


「あ、すみません。お取り込み中でしたか?」

ダーウィンフィンチ!今良いところだったのに!


「ダーウィンさんじゃないですか!で?どういう要件で?」

ダーウィンはさっきまでの空気を気にしていないようだった。いや・・・おかしいでしょ。多少は気にしてよ。

オオウミガラスは何言かダーウィンと言葉を交わしたあと、部屋を去っていった。

「いや〜。良いなぁ・・・私も誰かに気に入られたいなぁ」

「いやいやいや。あなただって相当先輩に人気でしょう?」

私は先輩にハグされたこと無いも〜ん。と言いすねてみせる。あ、一応気にしてはいたのね。

「だってさ、君はあのサーベルさんの妹って事で妹として可愛がってもらえるんでしょ!羨ましいよぉ!」

「ねぇ。その言い方は・・・ちょっと嫌・・・かな?」

ダーウィンフィンチはさっきまでの威勢を失って俯いた。

「ごめんね・・・」

「あぁあぁ!もう!そんなに気にする事は無いからさ!」

なんか気まずい雰囲気になってしまった。

「あ、運んでくれてありがとね。助かった。」

「ま、次からは自力で帰れるようにね。」

それは敵次第かな〜。ま、黒いやつはそうそう出るもんじゃないけど。


「そうだ。ティラミス。なんかお礼をしたいっていうフレンズがここに来てるよ。」

お礼?うーん。多分輝きを奪われた子かな?

「多分ね。どうする?追い返してもいいんだけど」

「追い返す理由なんて無いよ!すぐ通して。」


OK。じゃあ連れて来るね。と言うと部屋を出てってた。

「あ!私そのまま仕事戻るから!失礼のないようにね♪」

失礼な。


しばらく待っていると、そのフレンズは部屋に入ってきた。見た事が無いフレンズである。まるで夢に出てきたような黒い羽根に胸元に大きく輝く黄色のリボン。

「君は・・・鳥のフレンズ?だよね?あってる?」

おどおどしてるフレンズをなんとか落ち着けようとして話かける。頭の中には「失礼のないようにね♪」が反復している。あいつ!


おどおどしてるフレンズは一向に口を開いてくれない・・・シャイなのかな?と思っているとようやく口を開いた。

「あ、あの・・・」


しかし、お礼の言葉を期待していた私に投げかけられた言葉は、あまりに予想外なものだった。


「あの!セルリアンをタスけてホしいの!」


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