第2話 短剣と血
鬱蒼とした森である。かつて存在した石畳の隙間からは木が生えていてかつて「ヒト」がいた頃の面影を残していた。
その鬱蒼とした森の中で唯一木々がなぎ倒され、空から太陽が覗いている場所があった。ぽっかり空いた穴の中央には黒い球状の体にアンバランスな蟹のような二本爪のセルリアン
かつてヒトに「ファングセル」と呼ばれていたセルリアンがぽつんと浮いて居た。木々が倒されているのは以前の「狩り」で逃げ回るフレンズを木ごと押し倒した事によるものだろう。
しかしそんなハンターであるファングセルは、己の近くに自分をハントしてくる者が潜んでいる事に気づく事ができていなかった。
ティラコスミルスは倒木の横に体を沿わせるようにして身を隠していた。これは彼女の経験則だが、セルリアンというものは基本的に動く物体に反応するのである。ただし彼らが欲する「輝き」を持っていなければ。の話ではあるが。
ティラコスミルスは輝きを持っていない訳では無いが、今セルリアンは自身の中にも輝きを溜めており、輝きに対する反応が弱くなっているのである。
ファングセルは恐らく食べた輝きを消化しきったのだろう。ティラコスミルスの隠れている反対側の方に進んでいった。
「もらったよォ!」
ナイフがファングセルの耳をえぐり取った。切り口からは黒色の泥が流れ出す。彼女の腕は一瞬で黒く染まった。
ファングセルは自分に襲いかかってきた敵に向き直ろうと体を回そうとした。しかし手慣れたハンターはそうさせる事はなく球体状の体の表面にナイフを突き立て思いっきり下に振り下ろした。黒い表面はヒビだらけになり、ボトボトと黒い液体がこぼれ落ちる。
ファングセルは生きていないのに命の危機を感じたのだろう。彼は向き直る事なく、逆に彼女に後ろ向きに体当たりをかました。
小柄なティラコスミルスはタックルを正面からくらって、後方に吹っ飛んだ。小柄故に遠くまで飛ばされてしまい、木に体を強打した。
「っ・・・ー」
全身に激痛が走る。ティラコスミルスは木にもたれかかった。吹き飛ばされた際にナイフは手元にはなく、その間にセルリアンは態勢を整えてこちらに向かってきている。
もう序盤の優勢は完全に崩れた。しかし彼女は不敵にも笑みを浮かべると左に帯びた最後のナイフを右手で引き抜き、もたれかかっている木に刺した。
ファングセルは蟹のように大きな爪で鋭いパンチをかましてくる。もたれかかっている彼女が躱せるわけもなく、顔面に一撃当たった。
視界が赤く染まって見える。この感じだと恐らく前髪は赤く染まってしまっているだろう。
セルリアンはトドメをさしにきた。腹部に豪速ストレートを凄まじい速度で押し込んだ。
次の瞬間セルリアンは仰け反った。腕が縦に裂けていたからである。彼女は殴られる前にナイフを腹の前に構えていた。セルリアンは自ら腕を切られにいったようなものである。
すかさず残った第2の腕で彼女を殴り飛ばそうとしたセルリアンであったが、ティラコスミルスはセルリアンに接近し残った腕の付け根に残ったナイフを突き刺した。
セルリアンは体をひねって慣性でティラコスミルスの横顔をひっぱたいた。腕の黒い外骨格が衝撃で弾けた。
ティラコスミルスは弾けた外骨格を空中で拾うとヒビの隙間に押し込んだ。確かな感覚である。
「終わったんだけど・・・フィンチ早くしてー。」
なんとも間の抜けた声で一言発したあと、ティラミスは倒れ込んだ。
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