けものの祈り
みみのり6年生
剣歯虎の妹
第1話 剣歯虎の妹
ここは、どこだろう?
ただ暗いやみが、自分の周りに広がってる。ただ。それだけだった。
足元すらくらやみで何も見えない。
「わたし」は必死に走っている。どこに?
不思議と怖くはなかった。恐怖を感じない自分が怖かった。
「お前はだれだ?」
わたしは・・・わたしは・・・わたしは・・・
◯
ジャパリバスがガタガタの道を車体を揺らしながら進んでいる。
運転席にはダーウィンフィンチが一切表情を変える事なく真顔でハンドルを握っていた。
「うう・・・わたしぁ・・・」
助手席にはティラコスミルスがよくわからないうわ言をつぶやきながらチェアーに横たわって寝ていた。
ティラコスミルスは薄黄色のワイシャツに白のネクタイ。白と茶色の斑点のコルセットに大きなポケットがついている衣装のフレンズで、サーベルタイガーによく似ている。
ガタッ!ジャパリバスが石につまずき大きく車体を上に跳ね上がらせた。ダーウィンフィンチは舌を思いっきり噛んでしまった。その衝撃で、おねむさんはようやく目覚めたようだった。
「っ!ん〜おはよう。運転変わろうか?」
「別に大丈夫・・・。それよりうなされてたけど、大丈夫?」
ティラコスミルスは一回大きくけ伸びした後、寝起きの曖昧な声で
「怖い夢じゃないんだけどね・・・なんか変な夢。」
「なにそれ。ちょっと気になる。」
「なーんかね、こう周りがすごい暗いやみなの。なーんもない、足元も見えないくらいの。」
なーんだ、よくあるじゃん。そういうの。フィンチは彼女を見る事なく答えた。
「いやいや・・・でね、こう、やみの中から声がするんだ。誰かが周りにいるわけでもないのに。お前は誰だ〜ってね」
「意味わかんない夢だね。」
ティラコスミルスは頷いて、欠伸一つかいた。
「わたしって。・・何なんだろうね。」
急にどうしたの?
「いやぁー、なんかずっとお前は誰だ〜って聞かれてるとさ、自信なくなってこない?」
そんな事は無いかなー。フィンチは微笑んだ。
「お前は誰だ〜ってさ。ティラミスはさ、ほらサーベルタイガー隊長の妹じゃん。」
「そっか。そうだねぇ。」
ティラミスの微妙な反応はフィンチの発言に納得したようにも見えたし、釈然としないようにも捉えられた。
「それよりさ、あとどれくらい?」
「何言ってるんだか。もう現場だよ?」
まじか〜。と軽口を叩いたあと、ティラミスは左腰に2本帯びている短刀を撫でた。よし!今回も行けそうだ。
二人はセントラルセルリアンハンターである。セルリアンハンターは各地に点在していて、それぞれのちほーの自衛に当たっていたが、セントラルのハンターはセントラルの防衛だけではなく、各ちほーのハンターですら持て余すセルリアンに対処するのも仕事の1つになっていた。
「というか。そっちが主の仕事なんだけどね。」
「ん?どうしたの?」
なんでも無いよ。ティラミスは笑って答えた。
「ねぇ・・・セルリアン臭くない?」
「そうかな?鳥は鼻よくないからさ・・・ちょっと。」
森の奥・・・この匂いは・・・
「ねぇ。駆除依頼が来たのって・・・」
「うーんと・・・確か」
「「牙付き!」」
「やっぱり。」
ダーウィンフィンチは車を止めた。今までの緩やかな空気はどこかに逃げ失せ、ピリついた電気みたいなものが空気に伝う。
ティラミスはナイフを一本腰から引き抜いた。刃が日の光を反射して青く輝いた。
森の中じゃ鳥は十全の飛行を発揮できない。ティラミスはフィンチにここで待機するように伝えた。
「報告によると、あのセルリアンはフレンズ2人を食べた、らしいです。気をつけて!」
「わたしが牙付きなんかに負けるとでも?」
一度鼻を高く突き上げたあと、彼女は鬱蒼とした森の中に走っていった。
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