第21話 1.営業は行きたくありません

 倉庫、もとい、新しい職場であるレンタルオフィスへと移動。恐る恐る中を覗いてみれば、一部を改装したと言っていた通りそれなりに綺麗に片付けられていた。


 片付けられてはいたのだが、俺たち用のデスクが2台、隅の方にポツンと置かれているだけで他には何もなかった。


「ここで合ってるよね?」


 不安に駆られ神宮寺に声をかけると、興味の無さそうな無愛想な声が返ってきた。


「合ってるんじゃないですか」

「そうだよねぇ。合ってるよねぇ。でも、何もないよ。どうするの、コレ?」

「さぁ? 僕は、ただのヒラなんで。運営方針は部長が決めてください」

「え? ああ。うん。そうか。そうだよね」


 素っ気無い神宮寺の言葉にドギマギとしながらも、とりあえずの仕事を頭に思い描く。


 レンタルオフィスと言うくらいなのだから、誰かにこのスペースを借りてもらわなくては始まらない。つまり、借り手を探さなくてはならない。いくら仕事が出来ない俺でも、流石にそれなりに動いてみた。しかし、この一か月、何の成果もあげられていなかった。


「えっと、じゃあそろそろ、営業にでも行く?」

「営業ですか? あまり行きたくないですね」


 神宮寺は、俺の提案を鼻の頭に皺を寄せて一蹴する。一緒に仕事をするようになってから毎日これだ。流石の俺も腹に据えかねた。


「嫌って、キミねぇ。まずは、借り手を見つけないと。そのためには、営業をするしかないじゃないか」


 上司らしく神宮寺を諭してみたが、彼の心には響いていないようだ。


「借り手を見つけなくてはいけないという意見には賛成しますが、そのための営業とは具体的には何をしているのですか? まさか、道端で声掛けでもしているのですか? そんな非効率なこと、僕はしたくありませんね」


 馬鹿にしたような態度で、神宮司は肩を竦めた。


「じゃあキミなら、どうやって人を呼ぶの? 何か意見を出してよ」

「まぁ一般的に考えて、人を呼び込むためには、広告じゃないですか?」

「広告?」


 当たり前な事を聞くなと言わんばかりに、神宮寺は大きなため息を漏らした。


「僕はシステム管理部にいたくらいですから、デジタルにはそれなりに強いと自負しています。デジタル広告で良ければ、僕でもお力になれますが?」

「神宮司君、キミ、できる人だね」


 そしてデジタル広告で集客することを決めた我ら新事業推進部。しかしくどい様だが、現在のレンタルオフィスの稼働率は0%。社長の決めた期限まであと1ヶ月。俺は今焦っている。

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