二十五刀目 問題点

男の子は、読んでくれてありがと!と言って、ぴょこんと立ち上がってどっかに行ってしまった。


「……やりましたね、先生」


「……ああ」


「さて、どうしましょう」


そういいながら、紙と筆、墨と水を用意する。

面倒なことに、この世界には、シャーペンやボールペン、鉛筆と言った便利なものはない。


「まず、あの絵本には2つの方法が書かれていたが、絵本の中に描いてあった神、ようするに邪神を倒しに行こうとするのは辞めておいたほうがいい。無謀だ。そうすると、必然的に1つ目の、世界を周る、というものになる。そこまではいいな?」


俺はこくこくと頷き、メモを取る。


「返事は?」


「はい!」


ハム之助先生はこくりと頷いて、説明を続ける。


「だが、そこで問題になることがいくつかある。1つ目は、学校をどうするか、という話だ。お前は学校に通うべきだから、旅に出るなら中学を卒業してからだが、その後、オレもついていくということになると、オレは仕事ができない。ただ、旅をするなら金が必要になる。だから、オレは学校に残るが、お前一人だと心配だし、オレのためにやってもらっているわけだから、オレは学校に残り、金を稼いで6割お前にやる。かわりに、お前が召喚したときだけそばにいる、という形を取りたいと思っている」


そっか、召喚してるだけだもんね。

召喚を解除すれば、召喚される前のところに戻されるのか。


「ただし、その時に問題になるのが、召喚されたときの、このハムスターの姿だと、オレの力は半減するということだ。魔力もそう、物理的な力もそう。そうすると、お前がピンチのとき、ほぼお前だけでどうにかしなくてはいけなくなる。ほれでもいいか、という話だ」


まあでも、そうは言っても、中学卒業まで3年。

そこまでで一生懸命、体や魔法、剣の腕を鍛えあげれば、先生の力が半減してもなんとかはなるかもしれない。


「はい、大丈夫です」


「わかった。で、2つ目の問題点だ。世界を周るということは、いろいろな国に入ったり出たりする、ということだ。そうすると、国を出入りするための許可証が各国で必要となる。許可証の発行は、場所も、時間も、値段も、結構バラバラらしい。ただし、他国でその情報を手に入れることはほぼできない。つまり、こちらに戻ってくるまで、かなりの時間を要するということだ。お前は、それに耐えられるか?」


耐えられるかどうか。

まだ、わからない。

カナさん達に会ってからまだあまり時間も経っていないし、これから考え方変わるかもしれないし……。


「まだ……少し……」


「まあいい。また3年後、旅立つ時にもう一度聞く。考えておけ」


そのとき、ふと思った。

……ハム之助先生、やってもらってる側なのに俺に命令しすぎじゃない?

しかも使い魔の分際で。


ということで、そのあとは先生をハムスターにしたり人間にしたりして遊んでいた。

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