十刀目 慣れない名前

「いいか、大和」


「はいっ」


冬和の言葉にぴしっと姿勢を正して頷く。


「この地球での文字の表記は母音と子音というものに分かれる。あいうえお、を表記する五文字が母音、その他の文字が子音だ。それらを組み合わせて文字を表記する。そこまではいいな?」


「はい」


俺はこくこくと頷く。なるほど、仕組みはローマ字と同じようだ。


「『あ』は『@』、『い』は『#』、『う』は『!』、『え』は*、『お』は『?』だ。

これが母音。子音は、

『かきくけこ』が『「』と母音、

『さしすせそ』が『(』と母音、

『たちつてと』が『)』と母音、

『なにぬねの』が『/』と母音、

『はひふへほ』が『:』と母音、

『まみむめも』が『<』と母音、

『やゆよ』が『・』と母音、

『らりるれろ』が『ー』と母音、

『わゐうゑお』が『\』と母音、

『がぎぐげご』が『;』と母音、

『ざじずぜぞ』が『^』と母音、

『だぢづでど』が『>』と母音、

『ばびぶべぼ』が『〜』と母音、

『ぱぴぷぺぽ』が『"』と母音だ。

また、伸ばす音は表記しない。詰まる音は子音を二つ書くようにして表記する。理解できたか?」


「はいっ」


ローマ字すぎる。普通に五十音全てを覚えるよりは遥かに楽でよかった。表記の法則は理解できたし、あとは文字を覚えるだけ。


「教科書とかもこれで表記されているからな。覚えろよ」


「わかった。ありがとう。……あれ、数字は?」


「零、壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、捌、玖、拾、佰、阡、萬。ただ、地域によって違うこともある。そういう時は気合いで読め」


数字は漢字なんだ。……謎。俺が冬和の書いてくれた字と睨めっこしていると、冬和は言った。


「じゃあ自分の名前と僕の名前、書いてみろ」


俺は大山大和、だから……


??・@<@・@<@)?


……あ段、多かったんだな。

冬和だったら??・@<@)?!\@、か。

うーん、読みづらい。どう読めというんだ。冬和は俺が書いた字を見て言った。


「大和、特に説明していないところまで理解してるんだな」


「え?」


「僕は子音と母音を組み合わせるとしか言っていない。組み合わせ方は教えていない。……元の地球の言語のおかげか」


多分そうです、はい。

……にしても、冬和、随分と大きくなったなあ。いや、前に会ったのはもう十年前だし、当たり前なんだけども。冬和は俺がじっと見つめていることに気がついたのか、目を細めて、眉間にしわを寄せる。


「……なんだ」


「いや……冬和、成長したなって思って」


冬和は困ったような、居心地悪いような顔を浮かべてそっぽを向く。


「……慣れない名前だな」


俺は、なんとなく下を向いてしまった。

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